【雨の怪談】怪異は傘をさしてやってくる
”雨にまつわる怪談”怪談話3編
雨が降りしきる日、薄暗い部屋に籠もっていると何かが近づいてきている気がしませんか。雨の中には何かが、確かにいるんです。
|#01 『雨と都市伝説』

この季節になるとよく歌われる童謡に、北原白秋作詞・中山晋平作曲の「あめふり」があります。先日も雨の中、傘をさしてお子さんと歌っているおかあさんを見かけました。ほほ笑ましい光景なのですが、危ない、危ない…。
この歌はとても危険なのです。うっかり3番まで歌ってしまうと、曲の中で歌われている「ずぶ濡れの女の子」がついてきてしまうというのです。
とある小学校では、歌い終わったあと、視線に気づいた生徒たちが窓のほうに目をやると、ガラスに貼りつくようにして、じっと中を覗いている女の子がいたそうです。
もちろん、実話じゃありません。噂です。都市伝説というやつです。
「あめふり」についての都市伝説は数種類あって、その一つによると濡れていた女の子は傘を貸してもらったものの、肺炎で死んでしまったそうです。
母親と仲良く帰っていく男の子に嫉妬しつつ…。
都市伝説の古典ともいうべき「消えた乗客」も、雨の日の出来事として語られることが多いようです。
雨の中、しょんぼりと立っていた女性を乗せたタクシー。言われた目的地に着いたので、「着きましたよ」と言って運転手が振り返ると、いつの間にか乗客は消えている。
…というのが、この話の基本的な筋です。
夢でも見ていたのか、と思った運転手が客席を確かめてみると、シートがぐっしょり濡れていたと語られることもあります。この部分を生かすために、最初に雨の日の出来事だったと語られるのでしょう。
しかし、晴れの日だったのに、シートが濡れていたという話もあります。その理由は、消えた乗客が行きたがっていた家を、運転手が訪ねた時に明らかになります。
「町はずれの赤い屋根の家まで行ってください」
消え入りそうな声で、乗り込んできた乗客はこんなことを言います。タクシーの乗客ではなく、ヒッチハイクで車に乗ってくることもあります。言われたとおりに車を走らせていくと、たしかにそういう家がある。その家の前で車を停めると、乗客は消えている。
途中で降りたはずもないのに、と思って後部座席を調べてみると、なぜか彼女が座っていたところが濡れそぼっているのです。不審に思った運転手がその家を訪ねてみると、老夫婦が応対に出てきました。
運転手が事情を話すと老夫婦は顔を見合わせ、彼に家に上がるよう促します。そして仏壇まで連れてくると、そこに飾られた額を指さしこう言います。
「車に乗せたのは、この子だったのではありませんか?」
見ると、確かにそうなので驚いていると、老夫婦はぽつりぽつりと事情を話し始めました。仏壇に飾られていた写真は彼らの娘のもので、この春に事故死したと言います。
その日、彼女は残業で遅くなってしまい、駅から乗ってくるバスの最終便に間に合わず、大雨が降る中を歩いて帰宅する途中で信号無視の車に轢かれてしまったのです。
タクシーが彼女を乗せたところが、その事故現場でした。
「娘は家に帰りたかったのです」
と老いた父親は言いました。
「それで、あなたの車に乗せてもらったのだと思います」
そして、こう言い添えました。
「あなたで3度目です」