韓国映画『成功したオタク』にみる日韓のアイドル受容の違いとは?【梁木みのり】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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韓国映画『成功したオタク』にみる日韓のアイドル受容の違いとは?【梁木みのり】

 

 2024330日に日本公開された韓国映画『成功したオタク』を、遅ればせながら観に行った。小学生の頃からある男性歌手の熱狂的なオタクをしていた、オ・セヨンさんによるドキュメンタリーフィルムだ。

 彼女の大好きだった歌手チョン・ジュニョンは、2019年、セヨンさんが大学生になる年に、わいせつ動画を拡散した罪で逮捕された。同じ頃、韓国では男性芸能人の性犯罪が相次ぎ、たくさんのオタクが、セヨンさんと同様の「推しが犯罪者になる」という経験をした。セヨンさんはこのような経験をしたオタクたちにインタビューして回り、一本の映画にしたのだ。

 筆者は10代の間に約10年間旧ジャニーズのオタクをし、近年はK-POPアイドルのオタクをしているが、韓国のアイドルファンとの交流は皆無だ。だから「推しが犯罪者になったらどうなるか」以前に、韓国のオタクたちがどのようにアイドルを追っているのかが興味深かった。

 映画からわかったのは、思っていたよりも遥かに日本と異なる韓国のアイドル観だ。(チョン・ジュニョンはロック歌手だが、若い女性ファンに支持され、サイン会なども実施していたため、ここではアイドルに分類する。)

 セヨンさんたち韓国のアイドルオタクは、小学生の頃から推しをつくる。日本語の「推し」に相当する韓国語としては「チェエ(最愛)」が一般的とされるが、セヨンさんたちは推しを「オッパ」と呼んでいた。これは年下の女性が親しい年上の男性を呼ぶ言葉だ。年下の女性から年上の女性になら「オンニ」、年下の男性から年上の男性になら「ヒョン」、年下の男性から年上の女性になら「ヌナ」となる。上下関係を重んじる儒教思想がよく表れた言葉だろう。

 映画の中でセヨンさんは、小学生時代、チョンジュニョンが「他の大人たちに比べて、理想的な大人に見えた」と語っている。自分の考えがあって好きな音楽にまっすぐな姿がかっこよくて好きになったと言うのだ。ずいぶんませた小学生ではないか。

 我々日本の旧ジャニーズオタクたちは、小学生の頃、推し(という言葉はまだ一般的でなかった)を旧ジャニーズの慣習に則って「自担」と言い、普段は普通に名前で呼んでいた。それもまるで同い年かのような愛称で、だ。嵐の相葉雅紀なら「相葉ちゃん」、二宮和也なら「ニノ」という具合に。現代の日本の小学生もおそらく、BTSVのことは「テテ」、SEVENTEENのジョンハンのことは「ハニちゃん」などと呼んでいることだろう。

 理想的なオッパどころか、日本のオタクには、推したちが年上であるという感覚が希薄である。むしろ年齢が近い人を推していたほうが年上・年下を意識しやすい。あまりに年齢が離れているとキャラクター的にしか認識できず、小・中学生が30代のおじさんを「可愛い」と言う事態までざらに生まれるのだ。

 そう、日本のアイドルオタクたちの中心にある感情といえば「可愛い」だ。小さく、扱いやすく、守りたくなるもの。日本の女性たちはローティーンの頃からこの感情を発動させる。

次のページ韓国のオタクたちは真逆。理想のオッパに憧れて好きになり、熱烈に追いかける

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梁木みのり

はりき みのり

ジェイ・キャスト所属ライター

ライター

Z世代。ジャニヲタ歴12年。K-POPオタク歴まだ2年。ジェイ・キャスト所属ライター。早稲田大学卒。

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