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密通の結果産まれた子どもは「鬼子」だった

江戸の性 第125回

イラスト/フォトライブラリー

江戸の性事情』(ベスト新書)が好評を博す、永井義男氏による寄稿。

 現代では産婦人科の病院に入院し、出産するのが普通だが、江戸時代は自宅に産婆を呼んで出産した。

 産婆はいまでいう助産婦だが、江戸時代の産婆は出産の手助けをするだけではなく、生れた赤ん坊を殺すこともその重要な役目だった。

 当時、有効な避妊法はなかったから、望まぬ妊娠はおおかった。では、望まぬ妊娠をしたときはどうするか。

 間引きするしかなかった。

 産婆に頼んで、生れたばかりの嬰児を殺したのである。

 農村では口減らしのために、間引きは盛んにおこなわれていた。一種の人口調節である。

 農村だけでなく、都会でも産婆による間引きはおこなわれていた。そんな悲惨な間引きの例が藤岡屋日記に出ている。

 

 赤坂新町五丁目の髪結友吉の女房お民(18歳)は、同じ町内の屋根職人政五郎(27歳)と密通していた。亭主の友吉は女房が密通しているのを知り、弘化三年(1846)四月、お民を離縁した。

 そのときお民は妊娠していた。父親が友吉なのか政五郎なのかはさだかではない。お民は友吉に離縁されたのをさいわい、政五郎と結婚し、赤坂田町に住んだ。

 月が満ちてお民は出産したが、生まれてきた男の子は異形だった。いろんな噂が飛び交ったが、頭に角が二本はえていて、口には牙が生えていたという。

 そのほか、頭に毛は一本もなく、襟元より上に毛がはえていた。

 頭のてっぺんがくぼみ、穴のように見えた。

 口が異様に大きく、歯が生えていた。

 胞衣には一面に鱗があった。

 などとささやかれた。もちろん、ほとんどはデマであろうが。元の亭主友吉の怨念が異形の子になったのだという噂もあった。

 政五郎とお民夫婦は生まれてきた子を見て、産婆のお万(48歳)に頼んだ。

「どうにかしてください。こんな鬼子はとても育てられません」

 お万もこんな異形の赤ん坊は初めてなので、ひとりでは自信がなかった。そこで、知り合いの医者の女房のお升(36歳)に声をかけ、ふたりで間引きすることにした。

 お万とお升で相談し、濡らした懐紙で赤ん坊の顔をおおって窒息死させようとした。ところが生命力が強いのか、なかなか死にそうにない。ついに、ふたりで赤ん坊の喉に指をあて、絞め殺したという。

 なんとも悲惨な話だが、産婆が間引きをするのであれば「殺人事件」ではなかった。

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永井 義男

ながい よしお

小説家、江戸文化評論家。1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。


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