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オンライン授業がもたらす「学びの保障」と、腰の定まらぬ文科相

第49回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

オンライン授業

■揃わない文科省と文科相の足並み

 10月6日に開かれた記者会見で、萩生田文科相は「すべての授業がオンラインで代替できる、授業日数にカウントする、というのは今の段階では考えていない」と述べた。つまり、子どもたちが自宅で授業を受ける形でのオンライン授業を否定したわけだ。
 ところが、10月22日の自民党文部科学部会・教育再生調査会合同会議の場で文科省は、初等中等教育における遠隔・オンライン教育について、不登校対策や高校を中心に規制緩和に取り組む方針を示している。

 文科省は高校では遠隔授業に課せられている単位数の上限や、受信側の教員配置などの要件を見直すらしい。単位として認めるオンライン授業の数や、「受信している生徒の横に教員がいなくてはならない」と萩生田大臣が公言していることを見直す方針を示したことになる。
 小中学校についても、オンライン授業を含めた家庭学習を学習評価に反映することを検証するという。新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)による一斉休校時の特例措置だったものを、認めていく方針を示したわけだ。

 ただし日常的に認めようというわけではなく、今後も感染症や自然災害等で児童生徒が登校できない場合に限って適用する考えだという。あくまで「特例措置」としておきたいらしい。
 しかし、なぜ「特例措置」にしておきたいのだろうか。支障なくオンライン授業が行えて、それを学習評価に反映することもできる制度が整っているにも関わらず、非常事態の際にしか利用を認めない、というのは腑に落ちない。

■オンライン授業を望んでいるのは誰か

 文科省が2019年12月に公表した「平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」によれば、小中学校における不登校は6年連続で増加している。2018年度の小中学校における不登校の児童生徒の数は16万4528人で、前年度から2万497人が増えている。これは約14%の増加だ。
 2018年度の小学校では144人に1人が、中学校では27人に1人が不登校となっている計算となり、もはや珍しいことではなくなっているのだ。

 これに加えて新型コロナの影響による不登校も増えている。休校措置は解除されたにも関わらず、感染リスクを心配し登校を拒否している子どもたちが存在している。
 そうした子どもたちを無理やり登校させようとする強引な手段をとっている学校もあるようだが、そんなことをしていれば、学校に対する子どもたちの不信感は募るだけだろう。

 不登校の子どもたちにとってオンライン授業は、学習する機会を失わないための現実的な方法である。実際、新型コロナによる長期休暇中のオンライン授業では、不登校の子どもが授業を受けていたとの報告もある。
 コロナ禍で一気にオンライン授業を普及させた熊本市では、現在も不登校の子どもがオンラインで授業に参加するのを認めているらしい。


■多様化なき「学びの保障」は可能か

 萩生田文科相をはじめ文科省は、さかんに「学びの保障」を口にする。長期休暇で遅れた授業を取り戻せと、夏休み短縮を暗に促すのにも、「学びの保障」を根拠としたものだ。
 しかし、本気で「学びの保障」を考えているのなら、不登校の子どもたちのためにもオンライン授業を正式な制度として認めるべきかもしれない。自宅でオンライン授業で学んでいても、学校で学ぶことと同じだと認めなければ「学びの保障」にはならない。
 今は不登校にはなっていなくても、学校に通うことを負担に感じている子どもたちも少なくない。そうした子どもたちにとっても、オンライン授業は救いになるだろう。

 高校では、通学の必要がない通信制を選択する子どもたちが増えている。文部科学省が今年8月25日に発表した学校基本調査(速報値)によれば、5月1日時点で通信制高校に在籍する生徒数は、20万6994人だった。前年比で約1万人の増加、調査を始めた1948年以降で初めての20万人超えとなっている。
 「学校に通いたくない」または「通えない」と判断する子どもたちは確実に増えているのだ。それは、小中学校でも同じなのではないだろうか。

■現場不在のオンライン授業にメリットはない

 高校で通信制があるのなら、小中学校にあってもおかしくない。それが難しいのであれば、オンライン授業くらいは認めてもいいはずだ。それでこそ、「学びの保障」である。

 萩生田文科相は、そういう事態を懸念しているのだろう。オンライン授業が正式な授業に認められれば、学校に登校する子どもが激減する可能性がある。そうなれば、現在の学校のスタイルを維持するのが難しくなる。それを避けたいのかもしれない。
 だからこそ文科省としては、オンライン授業の環境整備は急ぐものの、「特例」のままにしておきたいのかもしれない。

 しかし、できることを「しない」というのも、おかしなことである。環境整備や、新しい制度に対応するために、教員も子どもたちも変化や努力を強いられている
 それを特例の枠に閉じ込めたままにしておくのは、速い車をつくらせておいて「スピードは出すな」と言うようなものだ。

 オンライン授業を授業日数に加えないと公言する文科相と、規制緩和を急ごうとする文科省は、どこを目指そうとしているのだろうか。オンライン授業の環境が整っていくことで、学校の在り方そのものが問い直されることになる。
 そこに文科相や文科省が目を向けているようには思えない現状では、学校自身が答を見つけていかなくてはならないのかもしれない。
 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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