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春画の体位は正常位が少ないのはなぜか

江戸の性 第23回

イラスト/フォトライブラリー

性交の体位は俗に「四十八手」といわれるが、もっとも一般的なのは正常位であろう。ところが、江戸の春画では本取り(正常位)はまずない。曲取り(正常位以外の体位)がほとんどである。江戸の男女は曲取りをこのんだのだろうか?

べつに曲取りがこのまれたわけではない。背景にある事情は、現代のAVも江戸の春画も同じといってよい。要するに、観客・読者へのサービスのためである。正常位では男女の下腹部が密着して、結合部分が見えない。結合部をずばり見せるためには正常位以外の体位を採用せざるを得ない。挿入の様子をあからさまに見せるための、特異で不自然な体位である。

そのため春画には、現実にはとうてい不可能と思われるかっこうや、体の向きがある。だが、女と男が奇妙な体位で交わりながら、

「ああ、いい、いい、いくいく。こんなにいいのは初めてよ」

「俺もいいぞ、いいぞ。こんなにいいのは俺も初めてだ」

などと書き入れにあるのを見て、

「ほう、このかっこうは、そんなにいいのか。ちょっとためしてみようか」

と考えるのは、たいてい亭主のほうである。そこで、女房にせまる。

「なあ、このかっこうでしてみよう」

「いやだよ」

「なあ、ものはためしと言うじゃねえか」

「仕方がないねぇ」

こうして春画の体位をためした結果、

「なんだ、意外とつまらないな」

くらいで終わればいいが、

へたをすると川柳の、

馬鹿夫婦春画を真似て手をくじき

馬鹿夫婦春画を真似て腰痛め

などという事態になりかねない。しかし、亭主と女房が春画を参考にしながら、

「おい、おめえ、もうちっと足を上にあげろ」

「もう、無理だよ。おまえさんこそ、腰をもっとねじりなよ」

と悪戦苦闘している様子を想像すると、なんとなくおかしい。変則的な体位はふたりの共同作業である。少なくとも夫婦円満でなければ取り組めない。

次回は、段差を利用した体位についてご紹介しよう。

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永井 義男

ながい よしお

小説家、江戸文化評論家。1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。


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