【新連載エッセィ】森博嗣「静かに生きて考える」第5回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【新連載エッセィ】森博嗣「静かに生きて考える」第5回

第5回 5月が一番夏らしい季節

【誰とも戦わない贅沢】

 

 無駄で贅沢なものといえば、その筆頭は「戦い」ではないか、と思う。気合を入れて、人を鼓舞するとき、「えい、えい、おう!」と叫び、「戦おう!」と拳を振り上げる。非難するつもりはないけれど、客観的に見てエネルギィが無駄に消費されているな、とは感じる。もったいないし、贅沢だなあ、と思うくらいは許してもらいたい。

 世の中には、「殺し合い」といえる「戦い」もある。本当に無駄だし、誰もが馬鹿げていると感じるはずなのに、何故か消えることがない。その理由は、戦いたい人たちが沢山いるからだ。これについては、僕は半ば諦めている。諦めるしかない、という結論に至って久しい。

 何故なら、平和を訴えるデモ行進だって、やっぱり拳を振り上げているのだ。選挙活動でも、みんなで「戦い抜こう!」と叫んでいるではないか。これが不思議だと思わない人たちが多数派なのが、僕には不思議だけれど、これが諦めた理由だ。

 おそらく、「戦おう!」という叫びの根源には、他者を巻き込もうとする気持ちがあって、「みんなで一緒にしたい」という、いわば「共感」や「絆(きずな)」への欲望が窺える。そして、それらは「ひとりぼっちは嫌だ」「孤独は最悪だ」という思いに根ざしているようだ。

 孤独は最悪って、本当にそうだろうか?

 そよ風が気持ちが良い季節になった。この静けさは、ひとりぼっちのときほど爽やかに感じられるものだと思う。孤独は、静かでのんびりとして、ゆるぎのない幸せを感じさせてくれる時間のことではないだろうか。

 誰とも戦わない。不戦の契りも一人だけなら必要ない(最近、「進撃の巨人」を全巻読んだ)。それもまた、最高に無駄で贅沢だといわれそうだけれど、一人でいるなら、誰でも比較的容易に実現できる。一人なら、周囲から非難される機会もない。自分を無駄だとは思わないように動物はできているから、大丈夫。死ぬまでは、安心して生きられる。

 

ハンモックと庭園鉄道。大半は広葉樹の森で、葉が出るのは6月だから、今はまだ日差しが眩しい。小さな葉が広がって、再来週くらいには生い茂る風景となるだろう。

 

文:森博嗣

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森博嗣

もり ひろし

1957年、愛知県生まれ。小説家、工学博士。某国立大学工学部助教授として勤務する傍ら、96年『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞し、作家デビュー。以後『イナイ×イナイ』から始まるXシリーズや『スカイ・クロラ』など多くの作品を執筆し、人気を博している。ほかにも『工作少年の日々』『科学的とはどういう意味か』『孤独の価値』『本質を見通す100の講義』『作家の収支』『道なき未知』『アンチ整理術 Anti-Organizing Life』など著書多数。SF小説の最新刊『リアルの私はどこにいる? Where Am I on the Real Side?』が4月15日に発売。

 

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