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香港の事態は何ら他人事ではない

令和の真相㉒

◆長官が辞めても反対派は納得しない

 これは暴動ですよ、どう見たって。
 器物損壊も放火もガンガンやっているんですから、政府側としても逮捕・起訴しないわけにはゆかんでしょう。

 となると5大要求のうち、二番目の「市民活動を『暴動』とする見解の撤回」と、三番目の「デモ参加者の逮捕、起訴の中止」はアウト。
 五番目の「林鄭月娥の辞任と民主的選挙の実現」も難しいでしょうから、事態は収束しない恐れが強いのですが、ここで考えるべき点がある。

 かりに林鄭長官がすべての要求を受け入れたら、反体制派は納得しておとなしくなるのか?
 黄之鋒のツイートを、もう一度振り返ってみましょう。
 先に紹介したツイートのスレッドで、彼はこう言っているのです。

【香港人にとって、林鄭長官の汚いやり口はおなじみだ。こちらの勝利を認めるような振る舞いは、政治的自由の行使に関する厳しい制限とつねにワンセットなのだ。で、制限のほうが譲歩よりずっと徹底的とくる。】
https://twitter.com/joshuawongcf/status/1169167619200438272

 この論理にしたがったら最後、5大要求が全部通っても、そんなものは見せかけにすぎないことにならないか。
 「林鄭は辞任したが、本質は何も変わっていない! だいたい辞めるのが遅すぎる! 戦いを続けるぞ!!」
 デモ隊がそう叫ぶのは目に見えています。

 アメリカ領事館前に集まったデモ隊など「北京に屈するな。香港を解放せよ」とまで謳ったのですから、中国からの独立でも達成しないかぎり、もはや納得するはずはありません。
 2017年の段階では、「香港の人々は北京政府に抵抗しようとしているのではない」と述べていた黄之鋒(前回記事「香港問題が突きつける『自由と繁栄』の逆説」参照)が、今や「香港政府、および北京政府に騙されてはいけない」とツイートしているのは、関連して象徴的です。

 

◆真の問題は社会的不平等か

 香港が中国の一部であるうちは、いくら行政府側が譲歩しようと、反体制派は収まらないのではないか。
 となれば、行くところまで行くしかありません。
 マレーシアのマハティール首相も9月6日、香港の事態は「一国二制度」の限界を示すものだとして、次のようにコメントしました。
 
【私はかねてより、同じ国の中に二つの異なるシステムを取り入れるなんて、早晩破綻すると思っていた。案の定、そうなった。】
【今回の事態に収拾がつかず、反対派がおとなしくならないまま、自治の徹底や独立へと要求をエスカレートさせるなら、中国も黙っていないだろう。】
https://www.scmp.com/news/asia/southeast-asia/article/3026113/hong-kong-protests-show-limit-one-country-two-systems?utm_term=Autofeed&utm_medium=Social&utm_content=article&utm_source=Twitter#Echobox=1567784124

 黙っていないとは、実力で介入するということです。

 マハティールの主張に従うなら、「一国一制度」(=完全な中国化)か「二国二制度」(=香港独立)のほかに、香港問題の落としどころはありません。
 とはいえ、独立はいかんせん無理でしょう。
 一国二制度は50年間の期間限定ですので、2047年にはどのみち終わってしまうのですが、反対派が激しいデモを続ければ、終わりがさらに早まることにもなりかねないのです。

 だとしても、なぜ黄之鋒や周庭といった反体制派は、現実的な落としどころをさぐろうとしないのか?

 面白い記事を紹介しましょう。
 沈聯濤(英語名アンドリュー・シェン、香港大学アジア・グローバル研究所特別研究員)と、蕭耿(英語名不詳。香港国際金融学会議長)が8月27日に発表した「香港の真の問題は社会的不平等だ」。
 ニューズウィーク日本版にも「香港デモの敵は、北京ではなく目の前にいる」として掲載されました。
https://www.project-syndicate.org/commentary/hong-kong-protests-democracy-inequality-housing-by-andrew-sheng-and-xiao-geng-2019-08(英語版)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-12898_1.php(日本語版)

 論旨を要約すれば以下の通り。
【香港の騒乱について、自由民主主義(反対派)VS 権威主義(香港政府+北京)の構図でとらえるのは間違いである。香港人の不満の大きな要因は社会的格差の拡大なのだ。】

 

 

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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  • 2018.09.15