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児童虐待と「運命の人質」(後編)

〈平貧〉の時代(14)

■正義感に酔うとロクなことはない

 

 前編では児童虐待の増加をめぐって、政府が打ち出した方針の問題点を指摘しました。

 

 あらためてポイントを整理しておきましょう。

(1)虐待(の疑い)に関する通告があった際、児童の保護者にたいして通告の出所を一切明かさず、関連資料も一切見せないという方針は、密告を正当化し、奨励するにひとしい。気にくわない相手を攻撃する手段として、虚偽の通告をする人々が現れるのは確実である。
(2)保護者が虐待を認めなかったり、転居を繰り返して関係機関との関わりを避けたりするときは、ためらうことなく一時保護や立ち入り調査を行うという方針など、憲法に違反する恐れが強い。憲法第22条は「居住・移転の自由」を定めているし、第35条は「住居の不可侵」を保障している。子どもの命を救うためなら憲法を無視することも許されるとなったら、法治国家も何もあったものではない。
(3)「通告の出所を明かさず、資料も見せない」という方針のもとでは、虐待に関する通告の捏造も容易となる。つまりは行政が子どもを勝手に取り上げることも可能となりかねないのだが、権威主義国や全体主義国の政府は、まさにこのような手を使って、反体制派の人々を抑圧してきた。

 ・・・頭の痛い話ではありませんか。

 社会には正義が必要ですが、正義感に酔ってしまうと、たいがいロクなことがないのです。

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佐藤 健志

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。

主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。

共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。

ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。


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