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児童虐待と「運命の人質」(前編)

〈平貧〉の時代(13)

■密告を正当化することの危険性

 政府の方針は、虐待(の疑い)をめぐる通告について、出所を一切明かさず、資料も一切見せないと定めています。

 おまけに保護者が資料開示などを威圧的に要求する場合には、児童相談所だけでなく、警察とも連携して対処するらしい。

 出所が明かされない通告とは、要するに密告です。

 すなわちこの方針、

「虐待(の疑い)について密告があったら最後、根拠を何ら明かさず、子どもを保護者から引き離してよい。保護者が抗議したら、警察を使って実力で追い払う」

 ということになる。

 ならば気にくわない相手にたいする攻撃手段として、「あの家では子どもを虐待しているのではないか」と密告する人々が続出しても、何ら不思議ではありません。

 アメリカでは離婚が泥沼化したときなど、「あの夫(または妻)は子どもを虐待していた!」と主張して、自分の立場を有利にしようと画策することが、当たり前に行われているのですぞ。

 

 いや、海外の例など持ち出すまでもない。

 警察庁の生活安全局少年課が2018年10月に発表した「平成30年上半期における少年非行、児童虐待、及び子供の性被害の状況」という報告書によれば、「心理的虐待を受けているのではないか」との通告があった児童の数は2万6415人。

 前年同期、つまり2017年上半期の数字は2万1406人でしたから、23.4%の増加です。

 激増と言ってよいでしょう。

https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hikou_gyakutai_sakusyu/H30-1.pdf

 ところが「心理的虐待をした」という理由で検挙された保護者の数は、2017年上半期が22人だったのにたいし、2018年上半期は12人。

 じつに43.5%の激減となっているのです!

 通告が激増する一方、検挙が激減した。

 ふつうに考えれば、これは空振りの通告がどんどん増えたことを意味します。

 当該の空振り通告が、善意にもとづく勘違いばかりだったと考えるのは、いかんせん人が好すぎるのではないでしょうか?

「虐待の疑いをめぐる通告に関しては、通告元を開示する前に、それによって通告者に危害が及ぶ恐れがないかどうか検討し、場合によっては非開示とする。虐待の関連資料の扱いについても同様である。ただし非開示の通告、および資料については、内容が正確であるかどうか、ことさら入念に精査しなければならない」

 少なくとも、この程度には慎重な姿勢を取るべきだと思うのですが。

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佐藤 健志

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。

主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。

共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。

ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。


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