まるで茶色い宝石箱!藤山氏の忘れられない味
次に藤山の舌がいまでも忘れることなく、その味を覚えているのは、パリ4区ヴォージュ広場9番地「ランブロワジー」の「牛尾の赤ワイン煮込み」である。
最初に断っておくが、これから紹介する「ランブロワジー」は単なるミシュラン三ツ星レストランではない。現在、パリに10軒の三ツ星店があるが、その三ツ星のなかでも、藤山に言わせれば別格。なにしろ、1988年から30年近く、ずっと三ツ星を保っているのだから。つまり、現在のパリの三ツ星店の中で、一番、長く三ツ星を維持している店である。
オーナー・シェフはベルナール・パコー氏。「まさに、これだ!」というフレンチを心ゆくまで堪能させてくれた。
その中でも、特に、僕がいまでも忘れられないのは、「牛尾」、いわゆる「オックステール」の赤ワイン煮込みである。メニューには「クー・ド・ブッフ」とある。
それにしても、この「クー・ド・ブッフ」が運ばれて来た大きめの皿の中央にドッカリと乗って、まわりに赤ワインのソースがかけられてあるその姿を初めて見た時の衝撃は、忘れられない。
この料理は山本益博氏と一緒に1989年3月29日の夕食で食べた。正確にはごちそうになった。
藤山は「クー・ド・ブッフ」をどう表現するのか。
皿の中央に置かれた牛尾は、ところどころ赤黒く焦げていたが、藤山的にはなぜか、こげ茶色の大きめの宝石箱のように見えた。
普通、宝石箱と言えば、小さな宝石が表面に埋め込んでキラキラしていると思うが、本当の貴婦人の宝石箱はそんなにチャチではない。フランス革命で露と消えたマリー・アントワネット(1755〜93)やその娘で最後の王女マリー・テレーズ(1778〜1851)の宝石箱は、きっとこんな感じではなかったのかと、藤山は思ったのである。
