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リモートワーク時代こそ意識せよ。対話の本質とは「悪」である。【福田和也の対話術】

福田和也の対話術


新型コロナの感染拡大が影響して、この1年でリモートワークが盛んに推奨され、一気に加速した。

とはいえ、人間の「対話の本質」が変わるわけではない。むしろ、その対話にこそもっと意識的に、そして慎重になる必要があるのではないか。

そもそもコミュニケーションが苦手だという人もいるだろう。しかし、「対話の本質」を心得ておくことで、コミュニケーションというもののとらえ方も随分と違ったものになるだろう。

このほど初選集『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』を上梓した福田和也氏が、無敵の「対話の技術」を指南する。これは、真っ当な大人のための対話論だ。


 

対話とその悪

 

 ある程度世間を知り、その上で成熟を志し、さらなる洗練を求める人のための、対話、会話、議論の方法論を書いていきたいと思います。

 話し方論のようなものですが、一口で話すと云っても、言葉をどう使うか、つまり語り口とか言葉遣いといったことを問題にするわけではありません。

 言葉遣いをどうするか、といった事柄は、対話を考えるにあたっては、きわめてマイナーな付随的問題にすぎない、と云うと云い過ぎかもしれません。

 でも会話というものをいかに巧(うま)く(つまりは目的を実現させるにあたって有効に)展開するかということを考えた場合、言葉の使い方よりも、会話の相手や場面、文脈、状況などを判断して、そのあり様に応じて言葉をなげかける、そのための認識と分析の方が大事な場合が多いのです。

 ここでは双方を、総合的に考え、さらに美的な、文化的な洗練をめざす方法論のようなものを作っていきたいと思います。

 

悪の自意識

 

 さて、今あなたは、私の述べるところの対話の方法、テクニックについて読んでみようかな、などと気楽に、スナック菓子かなにかを召し上がりつつ、金の烏龍茶のペットボトルを片手にもって、ごくごく気楽に構えていらっしゃるかもしれません。だが、ここで今、私の文章を読むということは、実は、かなり重大な敷居というか、境界を跨(また)ぐ、または超えることなのです。

 いきなり脅かして申し訳ありませんが、対話、あるいは会話について考えるということは、かなり重大な意味をもっているのだ、ということをまず理解していただきたい。

 境界とは、何の境目か。

 それは善と悪を分かつ、大きな境目です。あなたは、対話の技術について考えることで、悪の世界に足を踏み入れることになる。

 対話について考えるくらいで、なぜ、悪の領域に入って行くことになるのか。何をおおげさな、と思いますか?

 もしも、そうあなたが思うのならば、あなたは大変認識が甘い、と云わなければなりません。対話とは、つまり他者と言葉を交わすとはどのようなことか、まったく解っていない、と云ってもいい。

 あなたが、誰かに、自分の意見を伝えるとします。

 その時にあなたが、自分が発想した通りに云う、思いついた言葉をそのまま口にすればいい、あるいは何の斟酌(しんしゃく)もなく話してしまえる方であれば、あなたは、善人というか、無邪気である、イノセントな人であるということになるでしょう。そういう方、あるいは素朴でピュアな自分が好き、などと思っている方は、この文章を読む必要はありません。さようなら。

 私は、何でも思った通りに話せばいい、あるいはそういう無防備な関係こそが最高の人間関係であるというような無邪気な人が好きではないし、つきあいたくもないのです。さらに小声で申しますが、そういう人々は、あまり美しくない、まぁ健康的かもしれないが人目にさらすべきではないような顔をしているのではないか、と思います。

 それなりにきれいな人、あるいはこれからなる可能性のあるという人は、自分の意見を、どのような云い回しで云えばよいか、くらいのことは当然のことながら、考えるでしょう。などと云うとお世辞を云われているのだか、出鱈目(でたらめ)なんだか解らない心持ちになるかもしれませんが、ここが肝心なところなのです。

 

次のページ根本的に人間同士は、その心なり、精神なりを素朴に理解しあうことは出来ない

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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