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僕の家には犬がいる【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第13回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第13回

 

【ペットが家族や社会の一員となる】

 

 そのテリア以前にも、何度か犬を飼っていたけれど、どの犬も裏の庭につながれていた。家の中に入れることはなかった。どうして、今度の犬だけ家に入れたのか、理由はわからないが、たぶん「洋犬」だったからだろう、と理解した。母は、ディズニー映画に出てくる犬が可愛いと話していて、それに似た犬を買ってきたのだ。

 フォックステリアは、非常に気性が激しい。家族のみんなが噛みつかれ、怪我をした。しかし、とにかく賢い。人間の言葉を理解し、機嫌が良ければ難しい命令にも従う。おやつがもらえるなら、なんでもする。具合が悪いときには、獣医を家に呼び、往診してもらったが、その先生も犬に触らない。噛みつかれるからだ。「ちゃんと押さえていて下さいよ」といいながら注射を打っていた。獣医でも恐れる犬種だったのだ。

 僕も、手を噛まれて5針ほど縫ったことがあった。でも、この犬を可愛がり、よく抱っこしたし、散歩にも連れていった。この犬が死んだのは、僕が結婚したあとのことだ。

 その後、30代になって少し生活が落ち着いた頃、犬をまた飼うことになった。このとき以来、僕が飼った犬はすべてシェトランドシープドッグ(シェルティ)で、この犬種を選んだ理由は、大人しいから。テリア、プードル、ダックスなどは猟犬だから気性が荒い。牧羊犬は比較的大人しい犬が多い。もちろん、あくまでも平均的な傾向だから、個体差はあるだろう。

 最初から家の中で飼っている。家の中で人間と一緒に暮らしていると、自然に言葉を覚えるし、いろいろなルールも理解する。たとえば、人間の子供を庭先につないでいたら、家の中にいる子と差が生じるものと想像できる。それと同じことだ。身近にいるほど、自然に家族となる。

 森家の場合、犬だけを家に残して留守番をさせることはない。常に人間と一緒にいる。だから、犬を連れていけない場所へは人間も行かない。必然的に、そういう生活になる。人間の幼児がいれば、その子だけを家に置いて出かけることはない。それと同じ。

 犬を連れていく場合、電車には乗れない。だから、どこへ行くにも自動車になる。犬たちは自動車に乗るのが大好きだ。毎日ドライブをいきたくてしかたがない様子である。

 ショッピングモールでも、犬を連れて歩く。店によっては犬が入れないところもあるが、犬をカートに乗せて回れる店もある。日本でもそういった店が増えていることと想像する。人間の子供は数が激減したけれど、ペットの数は爆発的に増えている。ペット同伴で出勤する人、それを許容する会社も増加するはずだ。

次のページ時代が変われば常識も変わる

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森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。どうぞご期待ください!

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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