「ナチ・プロ」の正体とは? 人間をまるでモンスターのように狩り、バグのように修正しようとする人たち【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ナチ・プロ」の正体とは? 人間をまるでモンスターのように狩り、バグのように修正しようとする人たち【仲正昌樹】

ナチス (1933年)

 

 前々回前回と、ナチスの政策について、少しくらいは見るべきところがあるのではないか、と示唆する発言をする人を見つけては、「君はナチスを肯定しているので、ナチス化する危険がある」と攻撃して、ネット・リンチにかけるナチ・プロたちの振る舞いこそが全体主義的であることを指摘した。今回は、彼らが攻撃している相手をどういう存在と見ているのか考えてみたい。

 私は、ナチ・プロは攻撃している相手をリアルな人間ではなく、モンスター・ハンティング・ゲームのモンスターのようなヴァーチャルな敵キャラとして扱っているのではないか、と思う。彼らの中には、プロフィールから実際、かなりのアニメやネットゲーム好きに見える者が少なからずいる。ネット上である人を集中攻撃する時は、多かれ少なかれ、相手を生身の人間ではなく、ヴァーチャル・キャラのように扱ってしまうものである。ただ、集中攻撃の対象になるのは通常、著名人やYouTubeで目立つ動画を投稿するような、ある程度、リアルでどういう人か分かっている人物である

 それに対し、ナチ・プロが攻撃の標的にするのは、「ナチス」について肯定的と見られる発言をした(と思われる)人であって、それ以外の点ではどのような人かは関係ない。ブックレットで述べられている基準からみて、あるいは教祖のお言葉から見て、「ナチス肯定者」に該当するかどうかである。ごく普通に考えれば、ナチスの制服がかっこいいとか、アウトバーン建設がドイツの景気回復に役立ったとか言っただけで、そのまま民族浄化政策まで含めたナチスの政策を全て肯定するようになるとは考えにくい。しかし彼らは、教典や教祖の言葉によって×が付いたターゲットでありさえすれば、それがどのような人間か考えようともせず、敵と見なして集団で突撃し、弱ってもはやネット上で発言できなくなるまで攻め続ける。

 ×が付いたといっても、その人は犯罪者ではないし、迷惑系のYouTuberのように多くの人の迷惑になるので、違法かどうかは別にしても、道徳的に非難されるべき行動を具体的に取ったわけではない。精々、ナチスに関わる様々な現象の一側面について、ここは肯定的に評価してもいいのでは、という意見を表明しているだけである。

 ユダヤ人絶滅計画を正当化する者もごく少数含まれているかもしれないが、ほとんどの人はそうではない。大衆の支持を背景に政権を獲得・維持したのだから、ある人たちにとってはいい政策であったのではないか、と素朴な意見を述べているだけである。

 「大衆の支持を背景に政権を獲得・維持した」と言うと、教祖様の指令に従って判で押したように、「お前はナチスの政権獲得の仕方を知らない。勉強しろ」と言ってくる、高校生に毛の生えたような輩がいるが、ナチスが通常の選挙で第一党になれたのはそれだけ支持する人がいたということであり、他の保守系の政党がナチスと連立を組んだのも、その後政権を維持できたのも、積極的な支持者以外にも、ナチスを容認する人が多数いたからである。ナチスだけが反ユダヤ主義だったわけではない。そんなことを考える能力もない輩に、判で押したように、「ドイツ史の基本をお勉強して下さい」と言われるのだから、嫌になる。彼らにとっては、「お勉強して下さい」が、モンスターを攻撃するためのアイテムのようになっているのだろうが。

 話を元に戻すと、ナチ・プロはインターネットの日本語圏全域を、自分たちのモンスター・ハンティング・ゲームのフィールドのように考えて、教祖と教典の指示に従って、モンスター探しをして、当てはまる対象を見つけたら、その対象を攻めることがゲームのルールとして前提されているように、攻撃を開始する。本当のゲームなら、ゲームに参加することに同意したプレイヤーがヴァーチャルなキャラと、あるいはプレイヤー同士で戦うわけだが、ナチ・プロは、ネット検索で自分たちの条件に合う「潜在的ナチス」を見つけ出し、本人たちがゲームに参加すると同意したわけでもないのに、モンスターとして攻撃を開始する。

 彼らが私に攻撃した時の言葉遣いからも、彼らがモンハンのような感覚でやっていることが窺える。一番顕著なのは、「最後になって大物が釣れた」とか「見事に罠にかかっている」といった言い方だ。まるでモンスターが罠にかかって、喜んでいるようだ。

次のページ彼らが「罠」と言っているのは、ブックレットで“論破”されている論点だ

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか』(KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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