「ナチ・プロ」の正体とは? 人間をまるでモンスターのように狩り、バグのように修正しようとする人たち【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ナチ・プロ」の正体とは? 人間をまるでモンスターのように狩り、バグのように修正しようとする人たち【仲正昌樹】

ポーランド ワルシャワ・ゲットー (1943年)

 

 相手も生身の人間であり、いきなり一方的に集中攻撃されたら、恨みに思ってどうなるかわからないということを考慮に入れないナチ・プロたちの振る舞いを見る限り、彼らなりにナチス的な言説が広がることの危険性について真剣に考えているとは思えない。不祥事を起こした特定の個人や組織に「責任を取らせる」ことを目的に炎上騒ぎを起こすのであれば、やり方のモラルやキャンセル・カルチャーの蔓延などの副作用はいったん度外視すれば、結果的に目的を達成できる可能性はある。しかし、ナチ・プロの行動にはそういう“合理性”さえない。ゲーム感覚で狩りをして、結果として“本当の敵”を生み出す可能性が高いし、彼ら自身が、反体制派を狩るナチスの突撃隊を模しているようにも見える。

 相手を生身の人間ではなく、ゲームのモンスターのように扱うナチ・プロ自身、ゲームのキャラのように、決まった台詞――「お勉強して下さい」「この程度の理解力で…」「噴飯ものです」「お話になりませんね」「終了!」――を一定のタイミングで打ち込み続ける。人間性を失って自動的に運動し続ける機械のようである。

 

ハンナ・アーレント

 

 ハンナ・アーレント(一九〇六-七五)は『全体主義の起原』(一九五一)や『イェルサレムのアイヒマン』(一九六三)で、人と人が人間同士として向き合うのではなく、巨大な戦争・統治機械の部品になったヒトが、ヒトをただの原料物質のようにいかなる感情的なためらいもなく処理するようになることを、全体主義の究極の帰結として描いている。

 ハンナ・アーレントの最初の夫――アーレントは二回結婚している――でもある批評家のギュンター・アンダース(一九〇二-九二)は時代おくれの人間』(一九五六、八〇)で、現代においては、高度に発達した技術の巨大な機構(機械のネットワーク)が、人間を含む自然界に存在する全ての対象を、何かを製造するための原材料もしくは機械の部品として取り込んでいることを指摘している。人間が自発的に設定したように目的も、実は予め機構によって用意されている。労働力を効率的に再生産するため、かつ、消費を喚起するために余暇が組まれ、その余暇を充実するために必要なメニューが設定され、自分の余暇を満喫したいと自発的に欲望する主体が、そのメニューをこなすことに懸命になっている、というように。

 

ギュンター・アンダース

 

 アンダースに言わせれば、全体主義のイデオロギーによって運営される国家だから、ユダヤ人をただの工業生産の原材料として収容所で処理するメカニズムができあがったのではなく、機構による支配が進んでいくに従って、それを人間たちのレベルで制度化する機構として全体主義国家が出来上がったのである。彼に言わせれば、人間をフォーマットに従って再生産する巨大な機構が、自己再生産するために反ユダヤ主義のイデオロギーを利用したのであって、その逆ではない。

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KEYWORDS:

✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか』(KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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