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右肩上がりでない未来【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第9回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第9回


森羅万象を観察し、深く思考すること。そこに新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白いものになる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中です。


 

 

第9回 右肩上がりでない未来

 

【持続と維持の大切さ】

 

 体調不良を何度か書いたので、お見舞いのメールなどが多数届いた。その後は元気ですので、ご心配なく。一方、奥様(あえて敬称)のスバル氏は、目の手術や足の捻挫などで、ここ最近は一人で歩けない状況。秋にガーデニングに頑張りすぎたせいかもしれない。いずれも病気ではなく怪我の部類なので、時間が経過すれば治るものだから、こちらもご心配なく。犬たちは、いたって快調。庭園鉄道もクルマも快調。

 寒い季節になると、怖いのは停電だ。これは自宅外で発生する現象なので防ぐことは難しい。天候に起因する災害は、住む場所を考慮したり、補助的な対策(たとえば発電機の用意など)しか打つ手がない。できるだけ安全で安心な場所を選んで住みたいものだが、たいていの人はその方面で不自由な様子が伺える。国民の生活を考えるのなら、こういった環境整備に税金を使ってもらいたい。それが政治というものだと考えているが、目に見えにくい政策は国民の受けが悪い。必然的に、受け狙いの政策ばかりを小出しにするから、せせこましいリーダになってしまう。

 とはいえ、自分の庭で運行している小さな鉄道でさえ、完璧な状態を維持することは難しく、つぎつぎとトラブルが発生し、その修繕・復旧に追われる毎日であるから、人のことはいえない。なにかを作り上げるのも大事だけれど、それ以上に、それらを維持することに頭を使わなければならない。

 つい、完成したら万歳、あとはもう幸せな毎日が待っている、と思いがちだが、あらゆるものが劣化する。日本の産業というのは、発展するシチュエーションばかりに注目しがちで、発展ののち頭打ちとなるだけで、とたんに斜陽だ、じり貧だと溜息をつく。もう少し、ものごとを持続する行為、じわじわと生き延びる方策、そういった水平飛行の姿勢に目を向けても良いのでは、と思う。「粘り強い」と、わざわざ評価するほどのことでもなく、滑空するように自然体で高度を下げるのも、ある種の「健康」といえるだろう。べつに「V字回復」しなくても良い。過去の繁栄を夢見て、あれこれ薬やサプリを求めるのは、むしろ不自然だ。

 年寄りこそ、そういった境地になれるチャンスといえるのだから、「発展志向」の社会に率先して水を差す役割を果たしてもらいたい。そんなタイプの政治家が不足しているのは、「発展志向」に取り憑かれた業界からの献金が、政治家の偉さの指標になっているせいでは、と想像する。

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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』2024年1月17日発売✴︎

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。どうぞご期待ください!

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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