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Gに気をつけろ!【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』31品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」31品目


「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【31品目】「Gに気をつけろ!」をご賞味あれ!


イラスト:おくやま ゆか

 

【31品目】Gに気をつけろ!

 

 さて、今回は憎っくきGの話である。読売ジャイアンツのことではなく、「1匹いたら100匹いる」と言われる例のアレだ。アレのことなど想像したくもないという方やお食事中の方はパスしてもらったほうがいいかも。私だって本当は書きたくないのだが、飲食店について書く以上、Gの話は避けて通れないのである。

 ……いいですか? 始めますよ?

 ……本当にいいですか? 引き返すなら今のうちですよ?

  はい、では始めます。

 飲食店にとってG、すなわちゴキブリ(ここからは実名表記)は大敵だ。病原菌を媒介する、フンや死骸がアレルゲンになるなど衛生面の問題もあるが、何よりもイメージが悪い。どんなにオシャレな店でもゴキブリが出たら一発で台無し。いや、オシャレであればあるほど、ダメージは大きいかもしれない。

 以前、夫婦で晩メシを食べていた近所の人気ビストロで、突然「キャーッ」と女性の悲鳴が上がった。悲鳴と同時にガタガタッと椅子から立ち上がる女性。もともと狭いうえに混雑した店内に何事かと緊迫感が走る。お店の人が駆け付けてテーブルの下を覗き込む。「そっちそっち!」と指さすお客さん、手にしたホウキで床をバシバシ叩く店の人……。あー、ゴキが出たんだな、と察する私。しかし、ターゲットは逃走したらしく、「お騒がせしましたー」という店長の言葉で一応事態は収拾したものの、「どこかにヤツがいる……」というどうにも落ち着かない空気は拭い去れないのであった。

 こうなるともう、食事を楽しむどころじゃない。せっかくのオシャレビストロに場末感が充満する。悲鳴を上げた女性が一見客なら、料理やスタッフの印象より「ゴキブリの出た店」としてインプットされてしまったに違いない。

 しかし、飲食店にゴキブリは付きものだ。どんなに掃除をしていても、あの手この手で駆除しても、食品を扱っている限りヤツらはやってくる。何しろ2億5000万年前から現在に至るまで生き残っているのだから、ある意味、地上最強の生物だ。たかだか20万年程度の歴史しか持たない人類ごときが太刀打ちできる相手ではないのである。

 ただ、できれば目につくところに出てこないでほしい――というのは、飲食店経営者だけでなく、全人類の願いだろう。ヤツらだって人間に見つかれば殺されるリスクがあるのだから、ひっそり物陰に隠れて暮らしていてくれればウィンウィンの関係が築ける。にもかかわらず、チョロチョロ顔を出すから戦争が起こる。世界平和への道のりは遠い。

次のページランチタイムの小鉢に小さなゴキブリが・・・

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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