Gに気をつけろ!【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』31品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」31品目
ゴキブリに比べればネズミはかわいいと言ってもいい。同じ齧歯類のハムスターやリスはペットになるぐらいだし、ネズミだってちょっと毛の色が違えばペットの座に就けたかもしれない。実際、大学時代に心理学科で実験用に飼っていた白いマウスは、ほぼペットであった(自分の担当マウスには好きに名前をつけるのだが、毎年必ず「アルジャーノン」とつける輩がいたという)。
とはいえ、飲食店においてはそうも言っていられない。ネズミ捕りを仕掛け、捕まったヤツは死刑である。ウチではネズミ捕りのカゴごとバケツの水に沈めていた。金網にしがみついて苦しげに鼻をピクピクさせてる姿を子供心にかわいそうとは思ったが、助けるわけにもいかない。
すごかったのはウチの母だ。ある日、2階の廊下を白昼堂々ネズミが走っていた。そこに居合わせた母が手に持っていた濡れ雑巾をネズミめがけて投げたら見事に命中。雑巾の下敷きになって動きが止まったところにすかさず駆け寄った母は、思いっきり足で踏んづけたのである。「母は強し」とは、こういうことか(たぶん違う)。
ネズミといえば、あるとき3階の物置にハエが大量発生して、なんでかと思ったら棚の奥でネズミが死んでてそれが元凶だった――ということもあった。なぜかは知らねどデカいほうのゴキブリが集団で現れたこともある。
外食エッセイなのに食欲をなくすようなネタ連発で恐縮だが、飲食店がそういう敵とも戦わねばならないのは事実。今後どこかの店でゴキブリに遭遇したら、ゴキブリは叩いてもお店のことは叩かないでください。まあ、同じ店で二度三度と遭遇するようなら、それはちょっとどうかとは思うけど。
文:新保信長