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Gに気をつけろ!【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』31品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」31品目

 

 まだ社員編集者だった頃、先輩と一緒に新大久保のとんかつ屋に昼メシを食いに行ったら、先輩の小鉢に小さなゴキブリが入っていたことがあった。ランチタイムの小鉢はあらかじめ盛りつけたものが並べて置いてあるので、ヤツらからすれば入り放題。オシャレでも高級でもない店だし、まあ、そういうこともあろう。あんまり激怒してクレーマーみたいになるのも大人げない。が、そこで先輩が「すみませーん、これ、虫入ってるんですけど」と申告したときの店のおばちゃんの対応がすごかった。

「あら~、ちっちゃいの入ってたわねえ」

 ………………って、えっ、それで終わり? いやいや、別にタダにしろとか土下座しろとかは言わないけど、とりあえず新しいのに交換じゃないの? ちっちゃかったらいいってもんじゃないでしょう。

 人のいい先輩はあまりのことに呆然と黙していたが、さすがにそれは黙っていられない。「つーか、取り替えてもらえます?」と強めに言って替えてもらったが、あの「え、それが何か?」という態度はいっそ清々しかった。おばちゃんにとってはゴキブリなんて日常茶飯事、騒ぐほどのことでもないのだろう。

 と、他人事のように書いたけれど、ウチの店にもゴキブリは普通にいた。1階が店舗で2階、3階が従業員の更衣室と物置&我々家族の住居という構造で、食料の多い1階がヤツらの本拠地だったと思われるが、2、3階の居住スペースにもちょいちょい姿を見せていた。多く見かけたのは小さめのチャバネゴキブリで、それはさほど脅威ではない。スピードも大したことないのでティッシュで捕獲、殺処分可能。

 恐ろしいのはデカくて黒いクロゴキブリだ。あのテラテラした黒光りのルックスがキモいうえにスピードも速く、しかも飛ぶ。天井や壁にたたずむヤツに攻撃を仕掛けたら、顔に向かって飛んできたという恐怖体験をお持ちの方も多いはず。今はいろんなタイプの駆除用製品があるが、昔はスプレー殺虫剤ぐらいしかなかったので、機動力のある敵には苦戦を強いられた。

 そしてもうひとつ、飲食店と切っても切れない関係なのがネズミである。今でも夜に繁華街を歩いていると道端をネズミが走っているのを見かけることがあるが、昭和の我が家でも天井裏をよくネズミが走り回っていた。洗面所の石鹸がかじられていることもしばしば(あれは栄養になるのか?)。一般家庭にもネズミはいたと思うが、ウチはさらに多かったと推測される。

次のページゴキブリに比べればネズミはかわいい??

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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