「おふくろの味=肉じゃが」って誰が決めた?【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』30品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」30品目
「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【30品目】「『おふくろの味=肉じゃが』って誰が決めた?」をご賞味あれ!

【30品目】「おふくろの味=肉じゃが」って誰が決めた?
「おふくろの味」といえば肉じゃがである。国会で青島幸男が決めたのだ。今風に言うなら、自民党が閣議決定で決めたのだ。決まったことだからしょうがないのだ。
……というのはもちろん冗談だが、そう言いたくなるほど自民党は何でも閣議決定するし、「おふくろの味=肉じゃが」のイメージは根強い。たとえば、gooランキングの「おふくろの味と聞いて思い浮かべる料理ランキング」(2019年5月31日配信)では、1位:肉じゃが、2位:味噌汁、3位:卵焼き、4位:カレーライス、5位:煮魚となっている。「モデルプレス」の「『おふくろの味』で思い浮かべる料理ランキング」(2021年8月2日配信)でも、1位:肉じゃが、2位:カレー、3位:唐揚げ、4位:味噌汁、5位:ポテサラと、堂々の首位だ。
一方、女性誌「CanCam」のウェブ記事「男が思う『おふくろの味』って何?」(2020年1月4日配信)では、1位:カレー、2位:味噌汁、3位:肉じゃがの順。ライフスタイルメディア「macaroni」の「令和版『おふくろの味』人気ランキングTOP20! 懐かしいお母さんの味といえば?」(2022年7月29日配信)では、1位:卵焼き、2位:唐揚げ、3位:煮物、4位:肉じゃが、5位:カレーとなっている。トップの座こそ譲ったものの、上位にランクインしていることに変わりはない。
10~24歳を対象とした「Z世代が選ぶ!!『好きな “母の手料理” TOP10』」(2022年4月19日配信「Simejiランキング」)は、1位:ハンバーグ、2位:卵焼き、3位:唐揚げ、4位:オムライス、5位:カレーで、さすがに若い人が好きそうなメニューが並ぶが、それでも肉じゃがは6位に入っているのだから大したものである。
しかし、世のお母さんたちは、そんなに肉じゃがを作っているのだろうか。「Z世代が選ぶ!!」以外のランキングは、質問からして個人の思い出としての「母の味」よりも“あるある”イメージとしての「おふくろの味」が選ばれているような気がする。そこで定番として浮かんでくるのが肉じゃがというだけで、実態とは合っていないのではないか。
そもそも「おふくろの味」というフレーズ自体が胡散臭い。ちょっと歴史を振り返ればわかることだが、明治・大正期には中流家庭でも女中がいたし、農漁村では食事は家族単位のものではなかった。「お母さん」が「家族の食事」を一手に引き受けるようになったのは「専業主婦」が誕生した戦後の高度経済成長期以降のことである。「料理(家事)は女がやるもの」という昭和の価値観(そして今なお自民党が固執する旧態依然な家族観)を背景に成立したのが「おふくろの味」なのだ。