「おふくろの味=肉じゃが」って誰が決めた?【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』30品目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「おふくろの味=肉じゃが」って誰が決めた?【新保信長】『食堂生まれ、外食育ち』30品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」30品目

 

 具材が何であれ、炊きたてのかやくごはんは最高だった。お米の粒が立っていて、ホクホクと香ばしい。おかずなしでも全然食べられるし、めったにしないおかわりもするほど。おこげがまた格別で、姉と奪い合いになったものである。具材と調味料を入れて米を炊くだけだから分量さえ間違えなければだいたいおいしくできるとはいえ、母にとっても唯一自慢の得意料理だったのではないかと思う。

 そのかやくごはんに関して、忘れられない思い出がある。小学4~5年のときだったと思うが、本来なら日曜日開催のはずの運動会が、雨で月曜日に順延になった。そうなると、店があるので両親は来られない。ならばせめてあの子の好きなものを食べさせてあげようという親心だったのかどうか、かやくごはんをタッパーに詰めたお弁当を持たされた。

 私が通っていた小学校はとにかく人数が少なかったので、運動会はみんながいくつもの競技を掛け持ちすることになり、結構忙しい。てんやわんやで午前の部が終わって、お待ちかねの昼ごはんタイム。ワクワクしながらタッパーのフタを開け、かやくごはんを一口ほおばったそのとき……思わず「何じゃこりゃあ!」と脳内のジーパン刑事が叫んだ。

 炊きたてはあれだけおいしかったのに、冷めたかやくごはんは硬くてパサパサで味もそっけもないものに変貌していた。レシピサイト「クラシル」には〈かやくご飯は冷めてもおいしい〉と書いてあったが、母のかやくごはんはそうではなかった。味噌汁でもあればまだよかったが、残念ながらお茶しかない。やむなくお茶で流し込むようにして何とか食べたものの、めっちゃテンション下がったのは記憶に残っている。

 その日、弁当に関して母に何か言ったどうかは覚えていない。子供ながらに「ここは文句言っちゃいけない」と忖度したような気もする。逆に「めっちゃマズかったわ」とストレートに言ったかもしれない。いずれにしても、私にとって「おふくろの味」と呼べるものがあるとすれば、あのかやくごはんなのである(ただし炊きたてに限る)。

 

文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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