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【慎重な運用が前提】学校現場におけるビッグデータ活用に潜むリスク

第82回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-


 あらゆる職種や現場においてデジタル化・データ化のメリットが大きいことは間違いないが、それらが内包しているリスクについて、導入前に語られることは少ない。しかし、それが子どもたちのデータ化となれば、より慎重な運用が必須となる。教育現場のビッグデータ化に向かいつつある今、政府の狙いや現場の状況はどうなっているのだろうか…


■政府が目指すのは教育現場でのデータ活用だが…

 名古屋市教育委員会は6月10日、一人一台端末の運用で個人情報保護条例に違反する恐れがあるとの指摘を受けて配布済みのタブレットの使用を一時停止することを決めた。
 メール送受信やアプリ利用などの操作履歴をセンターのサーバーに記録していたのだが、子どもや保護者に無断での記録だったことが条例違反の可能性があるとされたのだ。

 教育委員会は「トラブルがあった場合に対応する目的だった」と説明している。今回は無断だったことが問題とされているが、そのデータを悪意で利用される可能性もありうるわけで、いろいろな問題が潜んでいる。デジタル化によってデータ収集が安易にできるようになりつつあるが、そのメリットだけが強調されてリスクが軽視されている。それは教育の場でも同じであり、デメリットにもつながりかねないことも再認識する必要がありそうだ。

 政府の教育再生実行会議は6月3日、「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について(第十二次提言)」(以下、提言)を菅義偉首相に提出した。そこで、学習履歴をもとに一人ひとりに応じた指導を行うなど、よりデータを活用した教育への転換を求めている。
 
 これによって、学校と教員はどういう対応を迫られてくるのだろうか。

 提言は「はじめに」で、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)が収束した「ニューノーマル」を構築していくために、「一人一人の多様な幸せであるとともに社会全体の幸せでもある「ウェルビーイング(Well-being)」の理念の実現を目指すことが重要であるとの結論に至りました」と述べている。
 ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念だ。最近はいろいろな場面で目にする言葉だが、改めて意味を確認してみれば、いまの日本にはほど遠いものなのかもしれないという気がする。だからこそ、目指す意味もあるのかもしれない。

 また、「こうした社会を実現していくためには、一人一人が自分の身近なことから他者のことや社会の様々な問題に至るまで関心を寄せ、社会を構成する当事者として、自ら主体的に考え、責任ある行動をとることができるようになることが大切です」とも述べている。
 そして、「こうした個人を育むためには、我が国の教育を学習者主体の視点に転換していく必要があります」と続いている。ポストコロナ期のニューノーマルでなくても、小学校では昨年度から、中学では今年度から実施となっている学習指導要領でも同じような目標を掲げているのだから目新しいものではない。

 ここから本題になってくるのだが、「提言」は「今回のコロナ禍は、初等中等教育の在り方を問い直す契機でもあります」としている。その前提として、新型コロナをきっかけに前倒しされた一人一台端末の導入を挙げている。
 しかし、一人一台端末は導入されたものの、「どう利用していけばいいのか」という問題に悩んでいるのが多くの学校現場の実情ではないだろうか。子どもたちは自宅にいてのオンライン授業の実施どころか、一人ひとりに配備された端末を自宅に持ち帰らせるかどうか迷っている学校も少なくない。
 それにも関わらず、「初等中等教育の在り方を問い直す契機」と言われても、学校現場は負担のみを感じてしまうのではないだろうか。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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