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【過去最低の採用倍率】なぜ「教員になりたい」人が減少しているのか

第65回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

教師

教員人気低迷の原因

 公立小学校教員の採用倍率が過去最低となった。文科省が2月2日に発表した2020年度採用の採用倍率は全国平均で2.7倍だったのだ。2倍未満の自治体も13あった。

 大量採用だった時代の教員が定年退職を迎えるため、採用者数が増えていることも大きな理由だが、前年度より2,951人減という受験者数の減少が影響していることも間違いない。教職の人気が落ちているのだ。
 この状況を打開しようと文科省は、検討会議で「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質向上プラン」を取りまとめ、2月2日に発表している。
 そこでは、設置要件を緩和することで大学に教員養成課程の新設を促したり、社会人が働きながら教員免許を取得する仕組みをつくる、履修科目を見直して総単位数を減らすことで小学校と中学校の両方の免許を取りやすくする、などの施策が挙げられている。教員免許取得のハードルを下げることで、教員志望者を増やそうというわけだ。

 しかし、教員採用試験の受験者が減っているのは、教員免許取得のハードルが高いからなのだろうか。教員免許の取得が簡単ではないことは事実かもしれないが、それが教員希望者を減らしている大きな要因とは思えない。
 問題なのは、教員をめぐる環境や待遇が改善されていないことである。「トイレに行く時間もない」という声も聞かれるほど多忙にもかかわらず、小学校では英語やプログラミングといった科目が増え、1人1台ICT端末の導入が前倒しになったために準備期間もなしに利活用が強制されている。忙しさは加速するばかりである。
 しかも、どれだけ残業しても残業代は支払われないのが学校現場の現状だ。一般企業では考えられない制度となっている。

 そんな教員という職業を、若者が率先して選ぶだろうか。教員資格取得のハードルを下げたところで、受験者が増えるのだろうか。
 現状でも、教員免許を取得しながら採用試験を受験しない学生は少なくない。わざわざブラックに見える職場を選ばなくても、一般企業も人手不足なので就職口はある。残業代もあるし待遇的にも教職より良い条件の就職口はたくさんある
 教員免許取得のハードルを下げることで免許取得者は増えるかもしれないが、受験者数を増やす結果にはつながらない可能性が大きい。「教師の人材確保」と意気込んでみても、教員志望者を増やすことにはならないだろう。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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