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【教育デジタル化の出口】「個別最適な学び」と「協働的な学び」は同居できるか

第64回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

オンライン教育

■「ICTの促進」が目的なのであれば…

 1月26日、文科相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)は答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」を公表したが、現場の混乱を招きそうだ。
 副題には、「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」とある。意味的には対局の「個別」と「協働」が同列に並べられている。これを同時に実現しようということらしいが、簡単ではないだろう。答申の概要は、総論を次のようにまとめてある。

「一人一人の児童生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが必要」

 自分の能力を認識した個人同士が協働して社会的変化を乗り越えよう、というわけだ。「理想」としてはうまくまとめられているのかもしれないが、具体性には乏しい。
 具体論としては、総論の「3」に「2020年代を通じて実現すべき『令和の日本型学校教育』の姿」としてまとめられている。概論によれば、「個別最適な学び」は「『個に応じた指導』(指導の個別化と学習の個性化)を学習者側の視点から整理した概念」と説明されている。
 教員による指導も子どもたちが行う学習も「個」が中心となる。これまでクラスに対して行っていた指導を、教員は個別に行うというのだ。そして、子どもたちは主体的に学習を最適化していくことを目指すことになるらしい。

 クラス全員が前に立つ教員に注目する授業スタイルだったものが、それぞれの子どもがそれぞれの学習に取り組むといったイメージだろうか。そこに、パソコンなどのICT端末を加えてみれば想像しやすい。
 同じ教室に居ながら、子どもたちは目の前のパソコンに向かって、それぞれに最適とされるアプリを使って学習している光景である。新型コロナウイルス感染症の影響で前倒しになった「1人1台ICT端末」が有効活用できている姿ともいえる。

 一方の協働的な学びはどうなっているのだろうか。概要には、「(教師や児童生徒、児童生徒同士の関わり合いなど)リアルな体験を通じた学びやICTの活用による他の学校の子供たちとの学び合いなど」と説明されている。
 子どもたちそれぞれがパソコンに向かっている姿と、「リアルな体験」が結びつきにくい。リアルな体験のためには、子どもたちをパソコンの前から遠退ける必要がでてくるのではないのだろうか。

 ただ、「ICTの活用による他の学校の子供たちとの学び合い」はイメージしやすい。違う学校の子どもたちが、オンライン会議をやるようなものだ。しかし、それだけで「学び合い」が実現するわけではない。これでは、「ICTを利用しました」で終わりかねない。
 個別最適な学びも協働的な学びも、つまりは「ICT利用」でしかないような内容になっているのが今回の答申といえる。相反するような個別と協働が、ICT利用ということでは繋がるというわけだ。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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