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教員の工夫なき新しい学校様式に未来はない

第40回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■文科省の告示は何を伝えているのか

 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)をきっかけとする長期休校による授業の遅れに関して、文部科学省(文科省)が8月13日に「告示」を出している。進学を控えている最終学年以外について、本年度に予定していた指導内容での積み残しがでる場合、次学年度または次々学年度に先送りする教育課程編成を認めるというものだ。これは今年5月に「通知」として方向性が示されたもので、今回の「告示」によって正式な制度として認められることになる。

 ところが、これが学校現場にとって喜ばしいことかといえば、そうでもない。「通知」でも「告示」でも、結局は「無理してでも今年度予定分は今年度中に終えろ」というのが文科省の本音のようだからだ。
 今回の「告示」には「留意事項」が添えられている。より細かく文科省の指示が盛り込まれており、次のように書かれている。

「各学校において本年度指導を計画している内容について学年内に指導が終えられるように努めても、なお臨時休業及び分散登校の長期化などにより指導を終えることが難しい場合」

 まずは「学年内に指導が終えられるように努めても」とあるが、これは5月の「通知」段階でも強調されていたことである。先送りしてもいいけれでも、あくまで「年度内に終えるよう努める」ことが大前提だと念押ししているわけだ。
 さらには、「同一の教科・科目等における指導する学年の移行を可能とするものであり、異なる教科・科目等への指導内容の移行を可能とするものではない」ともある。
 小4で算数での先送り分があった場合、それは次の小5での算数の時間にやらなければならない、ということになる。

■工夫の余地をなくす前提条件

 すでに学校現場では、遅れを取り戻すために合科的な取り組みが行われたりしている。たとえば、音楽でやる曲に合わせて体育の時間にリズム運動をしたりする。音楽と体育を同一時間にやることで、時間数の節約につなげているのだ。
 しかし、今回の「告知」を厳守することになれば、こうしたことを実施するのが難しくなる。音楽で先送りにしたものは、体育の時間に一緒にやるのではなく、次の学年での音楽の授業として時間を割かなければならない、というのだ。
 これは「合科的なことは認めない」と言っていることになる。合科的な取り組みとなると、教員の独自な解釈、工夫が必ず必要になってくる。それを認めない、と文科省は意思表示しているわけである。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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