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教員の工夫なき新しい学校様式に未来はない

第40回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■授業の効率化ができない告示の価値とは

 告示では次のようにも指示されている。

「高等学校及び視覚障害等特別支援学校の高等部においては、年次により履修する教科・科目等が異なっていることが多いと考えられるが、次年次に指導内容を移行する必要がある場合には、次年次においても同一の教科・科目等を開設して履修させる必要がある」

 教科・科目が次年次に無くなることが多い高校でも、次年次の科目のなかで先送りされた指導内容を取り入れることはできないことになる。合科的なことは許さない、文科省が定めた指導内容はストレートに実施しなければならないのである。
 長期休校で不足した授業時数を取り戻すには、小学校なら授業時間は45分だが、これを40分に短縮すれば6時限の日なら30分捻出することが可能だ。それに休み時間の短縮分の10分を足して40分の1時限分を工面して7時間授業にしてみたり、夏休みを短縮して授業時間を捻出してみても、授業時間は不足している。それを次年度に先送りしても、合科的なことが許されないのなら、6時間授業を7時間にするしかない。

 文科省が言っていることは、そういうことだ。教員が知恵を絞って工夫すれば、2時限をかけやらなければいけないものを1時限で終えることも可能である。しかし、文科省は教員の工夫を許さない。告知の「留意事項」はそうした文科省の姿勢を明確に示したものでしかない。
 しかも、「学年間での引継ぎに当たり指導内容の漏れが生じないよう、児童生徒の学習状況を適切に共有すること」ともある。年度が変われば、学級担任や教科担任が変更となる可能性は高い。学級ごとの指導の進捗具合が違ったりすると、学級編制の変更があった場合に、次の学級で子どもによって理解度合いがバラバラである可能性もある。そうした状況での「共有」は簡単なことではない

■際限なく教員に押し付けられる追加業務

 さらに「留意事項」では、「地域や家庭に対して丁寧に説明を行い、子供たちの『学びの保障』のための取組方針について十分に認識の共有を図ることが重要である」とも指示されている。
 しかし、これを実践するとなれば、かなりの時間と労力が必要になる。やるのは、教員になるはずだ。長期休校での遅れを取り戻す努力をし、それで間に合わなければ先送りにされた分の消化に時間と労力を割かなければならない。そのうえに、地域や家庭に対しても「丁寧に説明」しろというのだ。

 安倍晋三首相による突然の休校要請を受け、長期休校を強いられたツケを払わされるのは、学校と教員である。
 長期休校で授業時数が大幅に不足し、文科省の定めた指導内容を年度中に消化できない懸念があるなかで、文科省は「次学年度または次々学年度に先送りしていい」との方針をまとめ、それを今回は「告示」によって正式な制度にした。文科省が学校現場の現状をおもんばかっての措置と見えなくもない。

 しかし、その実態は、文科省が決めたことは絶対にやらせるということと、学校や教員が勝手に指導内容を解釈して工夫することはまかりならない、との姿勢を鮮明に打ち出したにすぎない。
 文科省は学校や教員を、考える「頭」ではなく、言われたことだけをきちんとやる「手足」としてしか見ていない。そのような仕組みでは、学校教育は早々に限界を迎えるしかない。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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