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【慎重な運用が前提】学校現場におけるビッグデータ活用に潜むリスク

第82回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■データの内容と運用方針を誤ってはならない

 それでも「提言」は、一人一台端末を生かした授業の早期実現を求めている。端末を活用することで、個別最適な学びと協同的な学びを一体的に充実させることが可能で、それによって子どもたちの「主体的・対話的で深い学び」も実現できるとしている。
 新しい学習指導要領の掲げる「主体的・対話的で深い学び」の実現は、その解釈も含めて学校現場には迷いがあるのだが、それも一人一台端末を利用することで解決するかのような書き方である。

「提言」が示すように、一人一台端末によって現在の学校が抱える問題は大幅に改善されるのだろうか。そうであれば、前倒しで導入を実現した意味も大きいといえるのかもしれない。
 しかし「提言」には、気になる部分もないわけではない。一人一台端末の活用を促すなかで、「データ駆動型の教育への転換」を提案しているのである。
 そこでは、「1.児童生徒に関するデータ(学習履歴や生活・健康面に関するデータ)、2.教師の指導・支援等に関するデータ、3.学校・自治体に関する行政データ等の取得や効果的な活用にも取り組む必要があります」と述べられている。言ってしまえば、教育に関するビッグ・データ化である。

「教育政策の効果については、テストスコアに表れる学力だけでなく多面的な観点から分析する必要があることや、分析の目的によっては、効果が得られるまでに時間を要するなどの特性があることにも留意する必要があります」とは言っているものの、「こうした点も踏まえ、数値化して分析する努力を最大限した上で、数値化が難しい側面についても、可能な限り情報を収集・分析し、総合的に判断して取り組むことが求められます」としている。あらゆることをデータ化することを求める姿勢に変わりはない。

 こうなってくると、これらをデータ化することが学校現場には求められてくる。データの入力だけでなく、入力するためのデータ収集も、学校現場の負担になってくるだろう。
 子どもたちについては、学習履歴だけでなく生活や健康面までもデータ化して蓄積させられることになる。一人ひとりに合った指導に結びつけられる可能性も高いのだが、一方でデータの示す「過去」でしか判断されない面も生み出しかねない。一人ひとりに合った指導も、穿った見方をすれば、テストでよりよい点をとるための指導にばかり利用されることにもなりかねない。

 教師の指導・支援に関するデータも、教師の指導力強化につなげられる可能性がある一方で、評価に利用されるという側面も否定できない。必要以上の指導につながることもありうるし、管理の強化にもなりかねない。
 データにしか表れない指導力だけで評価されたり、データにできる指導力しか求められなくなる可能性もある。画一化された指導につながることになるのかもしれない。

 データを活用することは必要なことではある。しかし一歩間違えれば、とんでもない結果につながりかねない。教育再生実行会議の提案する「データ駆動型の教育」には、そんな危うさも含まれている。

 

 

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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