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「この世から消えてほしい上司」を排除させる対話術とは【福田和也】

福田和也の対話術

 

 

 なぜ、お世辞が武器になるのか。それはお世辞を巧妙に投げかけることによって、相手を無防備にさせることが出来る、認識を誤らせることが出来るからです。

 何に無防備にさせるのか、相手の弱点にたいしてです。攻撃目標にとっての致命的ともいえるような弱点についての認識を狂わせる、意識をさせない、助長をする、ということがお世辞には出来る。

 例えば、明らかに説明能力、職場でのコンセンサスを作るのが下手な上司がいるとします。そして、あなたが彼を排除したいと思っているのならば、その点について彼が抱いている不安を、徹底して払拭するような言動を彼にたいして取るのです。ただし、そういうことを第三者がいる時に云うと、こいつは何を勘違いをしているんだ、と思われます。

 彼はおそらく自分の能力の欠如に気がついていて、何らかの手を打たなければならない、やり方を変え、あるいはスキルを身につけなければならない、と思っているのでしょうが、内心では、どこが悪い、おれのやり方の何が気に食わないんだ、と思っているはずです。

 そういう時に、あなたが、彼のコミュニケーション能力を高く評価するような言動を、ことあるごとに取ったら、どうなるでしょうか。例えばあなたが若い女性なら、ボーイ・フレンドにも見せないような笑顔で(まぁ、だいたい恋人同士というのはよほどお目出度くない限りはほほ笑みあったりしないものですが。第一気持ち悪いですし)、深い信頼感を表明しつつ、係長のプレゼンは、いつもとても理解しやすい、勉強になる、等と云うのです。

 そうすると、愚かな彼は、自分にたいする不安を、あなたの顔などを思い浮かべながら簡単に打ち消し、それどころか彼にたいして殺意を抱いているあなたに強い好意をもち、さらにはあの娘はオレに気があるんじゃないか、などという噴飯物の妄想を抱いて幸せな気分になるのです。

 あまり幸せになって、ストーカーまがいのことや酷いセクハラなどをされると困りますが、大体において、お世辞を攻撃の手段に使うほどの意識の高さがあれば、そういう事態は避けられるものだと思います。

 こうして、あなたが、彼がリカバーする機会を消し、彼がその欠点からミスを犯した時にも、庇(かば)うそぶりを見せて反省の機会を与えないのなら、彼は早晩そのポストを失うことでしょう。

 少し観察眼と頭脳を働かせれば、こういう機会がたくさんあることに気づくと思います。上滑りになっている人間を、より調子にのらせて破滅に追い込むことなどは、たやすいことです。しかも企みはまったく露見しない。

 改めて申しあげますが言葉とは、人と理解しあったり、融和したり、慰めあう玩具ではありません。それは戦うための武器であり、争うにしろ、愛するにしろ、傷痕を残さずにはおらない刃なのです。

 

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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