不穏な時代の「価値ある読書」こそ人間を精神から鍛えなおしてくれる【福田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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不穏な時代の「価値ある読書」こそ人間を精神から鍛えなおしてくれる【福田和也】

“知の怪物”が語る「生きる感性と才覚の磨き方」


いま日本人の多くが、社会や国、そして人間関係や自分の将来に、大きな不安と絶望を感じているのではないか。生成AIの登場しかり、天変地異しかり。日々のニュース情報がその不安を加速させているようだ。「安定した幻想から醒めきった時に、いかにして日本人は自分の頭と足で生き延びることができるか」福田和也氏は絶えずメッセージとして送りつづけてきた。待望の初選集『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』から珠玉の読書論を抜粋。“不穏な時代を生きる感性と才覚の磨き方”を語る。


写真:PIXTA

■なぜ人は本を読むのか

 

 なぜ本を読むのか。

 そうした疑問を、あなたは感じたことがあるだろうか。

 もしも感じたことがあり、そのことについて考えたことがあるのなら、それだけで君の人生は何ほどかのものだ。身近なことについて、根本的に考えるということはなかなか難しいものだし、さらに自分なりの答を得るのは大変に難しい。

 だが、大部分の人間は、私もそうだけれども、そういった問いを持つことなく、書店で本を手に取り、頁に視線を走らせ、そして読み終わるなり飽きるなりすれば、放りだしてしまう。本とのつきあいのなかで、強い印象を受けたり、考えさせられたりはする。その印象がきわめて強いものならば、いつまでも記憶に残っていたり、人に印象を伝えたくなる。そうでなければ、何となく面白かったとか、悲しかったといった感触だけが残って、じきに忘れてしまう。ほとんどの人にとって読書とはそういう経験だろう。楽しみ、暇つぶし、あるいは多少の教養と情報収集のために、書物を手に入れ、頁を繰る。

 にもかかわらず、あなたがまた書物を手にするのはなぜなのか。

 楽しむためならば、情報のためならば、もっと気の利いたものがたくさんあるのに。テレビ、ビデオ、ゲーム、インターネット……本は数千年前に作られた文字と紙、それに五百年前に発明された、印刷技術という折り紙つきの旧弊なテクノロジーの産物である。

 本などは、今になくなるという予測が、マスメディアに溢れているのも無理からぬことだ。にもかかわらず、あなたが本を手に取るとしたら、それはなぜなのか。

 あなたが、今日の世の中では、時代遅れとしか云い様のない感性しか持っていないからなのか。

 それともあなたが、書物にしかない魅力に、魅力という言葉では示しきれない力に気づいているからなのか。

 何を本は提供してくれるのだろう。

 その提供してくれるものを、小説にのっとって考えてみることにしようか。

 それは、ドラマであり、情景であり、感情の経験だ、と云うのは正しい。そうしたあらゆる要素が入った、一つの物語的な世界に入ることだ、と云うのはもっと正しい。

 けれども、それならば小説を読むということは、映画を見たり、ゲームをやったりすることと同じなのだろうか。

 確かに映画も、ゲームも、一つの物語的な世界を体験させてくれる。

 しかも、小説よりも、数段サービスたっぷりに。映画には具体的に映写される情景がある。光があり、影があり、人々の顔があり、姿がある。声があり、物音があり、音楽がある。さらにゲームならば、あなたはその世界自体にかかわることができる。それなのに、なぜあなたは本を読むのか。

次のページ想像をすることは、ある種の能力である

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福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる

国家、社会、組織、自分の将来に不安を感じているあなたへーーー

学び闘い抜く人間の「叡智」がここにある。

文藝評論家・福田和也の名エッセイ・批評を初選集

◆第一部「なぜ本を読むのか」

◆第二部「批評とは何か」

◆第三部「乱世を生きる」

総頁832頁の【完全保存版】

◎中瀬ゆかり氏 (新潮社出版部部長)

「刃物のような批評眼、圧死するほどの知の埋蔵量。

彼の登場は文壇的“事件"であり、圧倒的“天才"かつ“天災"であった。

これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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  • 2021.03.03