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「分散登校」で教員が気づいた「ゆとり」を失ってはいけない

第29回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■先行して分散登校を実施した学校では…

 「新型コロナウイルスの影響による休校を経て、登校生徒数を制限しながらの分散登校が始まりました。大変なことも多いのですが、それによって教員にも『余裕』が必要なことを改めて実感しました」

 そう語ったのは、公立小学校の教員だった。今年2月27日の休校要請で全国の学校は休校となった。4月7日に緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大されたが、5月14日には39県で宣言が解除となった。これを受けて、6月1日の学校再開を予定していた学校でも、再開を前倒しして授業を再開する動きが始まった。この教員の学校もそのひとつだった。

 しかし、コロナ禍以前のような通常どおりの授業が行われるようになったわけではない。分散登校では、例えば1クラスを2つのグループに分けて、子どもたちを登校させる。1クラスあたり何人までの授業であれば新型コロナ対策に効果的なのかどうかについては、明確なデータがあるわけではないようだが、通常の半分の生徒しか集まらないので、いわゆる3密(密閉、密集、密接)における「密集」回避への効果は期待できるかもしれない。ともあれ、新型コロナ対策だけでなく、すし詰め状態が子どもたちにとって良いわけがない。

 しかし、1クラスを2つに分けて授業するとなると、子どもたちは1回の授業を受けるだけでいいのだが、教員は同じ授業を2回やらなければならないことになる。通常の教育課程をこなしていこうとすれば、単純に2倍の仕事を教員は強要されることになる。この問題に対して学校はどう対応したのか。

 いち早く分散登校で授業を再開していた学校では、通常どおりの教育課程が実施されているわけではなかった。いや、教員数の増加もなく同じ授業を2回行うのは困難である上に、分散登校時は子どもたちが学校にいる時間も短く設定していたので、これまでと同じ教育課程をこなすことは不可能だった。
だが「それでも良い」とされていた。つまり、コロナ禍以前の学校とは違ってよかったのだ。これは、全国的に学校が再開していない状態だったからこそ許されたことなのかもしれない。

■休み時間に子どもの姿が見えないほどの激務に戻るのか

 先ほどの小学校教員が続ける。

 「分散登校を実施したところ、いくつかの変化に気づきました。分かりやすいのは休み時間です。これまで(通常時)であれば休み時間の教員は、宿題の添削や学校行事の準備など、様々な業務に追われます。仕事は際限なく続き、休み時間も必死に取り組まなければならない。近くにいる子どもたちの姿が目に入らない、という状態も珍しくなかったはずです」

 そう言われて思い浮かぶ光景がある。以前、ある小学校を訪問したときのことだが、休み時間になっても職員室はガランとしたままだった。教員はどこにいるのかと教室を覗いてみると、教室に置かれた自分の机の前に座り、必死の形相で何かに取り組んでいる。近くに子どもたちがやってきても、無視だった。いや、気づいてすらいなかったかもしれない。とても違和感を覚えたものだ。

 「しかし分散登校時には宿題も最小限でしたし、学校行事もありません。教育委員会からのアンケート依頼など事務作業もかなり減りました。それに、感染予防対策で遅くまで残ってはいけないので、教員も早く帰れました。結果として家族と過ごせる時間が増えましたね」

 これは在宅勤務が増えた世の父親たちも、同じではないだろうか。多くの教員も「心のゆとり」を持てるようになった。それが、悪いことであるはずがない。分散登校で同じ授業を複数回やらなければならないとしても、通常どおりの教育課程をやる必要はなかったので、精神的な余裕がうまれたのだ。

 「私だけでなく、他の教員に訊いてみても、分散登校期間は新型コロナ前よりも、ゆったりとした時間が流れていた、不要な負担が減ったという感想が多かった。休み時間でも、子どもたちと正面から向き合うことができました」

 心にゆとりが生まれることで、学校での子どもたちとの関係も良くなったと前述の教員は言う。分散登校の学校では、教員が「心のゆとり」を感じた。それは学校にとって重要なことであるにも関わらず、コロナ禍以前、通常時の学校では失われていたことなのかもしれない。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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