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人はみんな違っていて当たり前【森博嗣】 新連載「日常のフローチャート」第17回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第17回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中。


 

 

第17回 人はみんな違っていて当たり前

 

【友達は絶対に必要なものなのか】

 

 庭園内は春めいてきた。小さな花が沢山咲いている。ダウンなどを着込まなくて外に出られるようになった。凍っていた土も軟らかくなり、ガーデニングや線路工事が可能になる。まずは、冬の間に落ちた枯枝を拾い集め、毎日これらをドラム缶で燃やす作業。鉄道を運転しながらぐるりと廻ってくると、静かに芽吹いている小枝や、触手みたいなものを伸ばした苔が無数にあって、季節はディテールから変化することがわかる。

 冬の間は工作室に籠もっていたけれど、これからは屋外活動になる。犬たちも一緒に庭に出る時間が増えて大喜びの様子。空気は少し霞んでいて、森の香りが新しい。

 春眠暁を覚えず、という。なかなか起きられない。起きても、ぼんやりとして眠い。まるで霞んでいる春の景色のように、頭の中がすっきりとしない。そんな感じの方も多いのではないか。ただ、現実では4月から新年度となり、学校も会社も慣れない環境でスタートする、そのために生活も大きく変化する、なんて人も多数のはず。

 この状態のまま五月になると、蓄積した疲れとともに、ホームシックになったりするらしい。実際にそんな「五月病」の人に出会ったことは一度もないけれど、こんなにスマホが普及した現代でも、ホームシックなんてものがあるのだろうか、と少し不思議。

 初めて実家を離れた人、故郷から遠くへ出てきた人は、いつも周囲から声をかけられる環境から一転し、大勢の見ず知らずの人々が自分を無視するようにすれ違っていくことに耐えられないのかもしれない。五月病というのは、このような人が罹るのか。

 その逆の人もいる。いつも大勢から皮肉をいわれ、命令のような言葉を浴びせられてきたのに、街を一人で自由に歩けて、好きなときに好きなことができる、静かな時間を感じ、やっと落ち着いて生きられる、と思っている人である。

 小学生になる小さな子供たちは、学校で友達を作ることが使命のように教え込まれている。そういう圧力が学校にも家庭にもある。しかし、友達というのは何なのかは、意外に教えてもらっていない。笑顔で会話をすることが友達なのか。一緒に遊ぶだけで良いのか。そこがわからない。

 友人というのは、言葉では大事だ、宝だ、財産だ、と美化されているけれど、一般に、憎しみ合い、争いになるのも、血縁や友人という関係である場合が最も多い。

 かつては、集団の一員であることが生活に不可欠なファクタであったけれど、今はそうではない。個人でも生きられるようなシステムが構築された。それが都会の機能でもある。

次のページ多数派は、自分たちが当たり前だと思い込む

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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』発売忽ち重版!✴︎

 

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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