ステキなタイミング【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」49品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」49品目
「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【49品目】「ステキなタイミング」をご賞味あれ!
【49品目】ステキなタイミング
久しぶりに妻と一緒に「夫婦50割」を発動させて映画を見たあと、予約していたイタリアンの店に行った。以前から気になっていた店で、北陸の海の幸が売り。能登半島の地震の件もあり、応援の気持ちも込めてこの機会に訪れてみることにしたのである。
まずはグラスのスパークリングで乾杯。能登の被災者の皆さんのことを思えば乾杯どころではないが、実は前日が妻の誕生日だったにもかかわらず本人の仕事の都合でお祝いっぽいことができなかったので、一日遅れのお祝いということでご容赦いただきたい(日本赤十字社と石川県に寄付はしました)。
フードメニューを開くと、ノドグロや氷見ブリ、能登牡蠣、香箱ガニなど、いかにも北陸らしい食材が目を引く。どれもうまそうで片っ端から注文したいところだが、我々中年夫婦の食べられる量は決して多くない。慎重に協議を重ねた結果、ブリのカルパッチョ、ホタルイカのアヒージョ、カラスミと豆苗のペペロンチーノ、豚肉のサルティンボッカ(なんか豚肉を生ハムで巻いてソテーしたやつ)の4品を注文することになった。
グラスのスパークリングはすぐに飲み干してしまい、白ワインへ。北陸産のワインもあったがグラスで頼めるのは甘口しかなかったので、やむなくイタリアの辛口をグラスでいただく。そこにすかさずホタルイカのアヒージョが出てきた。どっちかというとカルパッチョを先に出してほしかったが、寒い季節には熱々の料理から入るのもいいだろう。ガーリックの香りに食欲をそそられる。付け合わせのバゲットにたっぷりオリーブオイルを染み込ませ、ホタルイカをのせて食べると、これがバカうま。お酒も進む。
とか言ってるうちに、カルパッチョが出てきた。アヒージョはまだ半分ぐらい残っている。とりあえず冷めないうちにアヒージョを片付けるべきか。でも、カルパッチョも一切れだけ食べちゃおう。うん、ブリもうまいね。ああ、もう酒がない。すみませーん、白のおかわりくださーい。……おっ、1杯目よりちょっぴり盛りがいい気がするぞ。もっと注いでくれてもいいんですよ? とか何とか言ってるうちに、アヒージョはだいたい食べ終えた……と思ったら、もうパスタが出てきたがなーー!
いやいやいや、早い早い早い。わんこそばじゃないんだから、もうちょっとゆっくり食べさせてくれないかな。待てど暮らせど料理が出てこないのも困るけど、あんまりハイペースなのも困る。特にパスタは出されたらすぐに食べないとアレなので、まだカルパッチョが半分ぐらい残ってる段階で持ってこられても困るのだ。
デカいファミレスとかなら調理完了したものから順にじゃんじゃん運ぶのも理解できるが、それほど席数も多くなくオープンキッチンで客の様子もうかがえる店で、ペース配分も考慮せずオートマチックに料理を出すのはいかがなものか。それがその店のペースなのかもしれないけど、酒を飲まない客ならともかく我々みたいに飲む客には、もう少しスローペースで料理を出したほうが経営効率的にもいいのでは?
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