箸と愛国【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」48品目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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箸と愛国【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」48品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」48品目

 

 ほかにもいろいろ検索してみると、箸と日本人の精神を結び付け、やたら称揚する言説がいくつも出てくる。

〈古くから、日本人の手先が器用なのは、お箸を使うからだと言われています。/箸は二本の棒を片手で操り、さまざまな機能をもたせる事の出来る優れた道具(食器)です。/日本人は、箸を使うことによって、微妙な指の使い方・力加減を幼い頃から習得していたのです〉

〈箸が「大切な道具」とされてきたのは古来に箸は五穀豊穣と子孫繁栄の祈りを込めて「神様と人間が共食する神聖な道具」として取扱われていたからです。まさに神様と人間の橋渡し役だったわけです。/人の誕生から葬送まで、私達日本人は毎日箸と永いお付き合いをしますが、箸にこめられた由来が我が国独自の宗教観に根ざして来た事と、日本の美しい割烹料理がそれに従って発達して来た訳です〉 

〈お箸は二本の小棒が寄り添って初めて成り立つ道具です。それは、神と人との関係のみならず、世の中においての、人と人との関係さえも象徴しているといえるのではないでしょうか〉

 すごいな、箸。割り箸を使い捨ててたら罰が当たりそうだ。

 まあ、そこまで極端な箸礼賛者じゃないにしても、外国人(西洋人)が箸を使うのを見て「お箸、お上手ですね」と(無意識の上から目線で)ほめてしまう人は少なくない。しかも、返す刀で「納豆は食べられますか」と聞いたりして。

 いやいや、日本人だってフォーク、ナイフを普通に使うし、海外でも日本食はそこそこ普及しているのだから、外国人が箸を使うのも普通でしょう。納豆だって、食べられる外国人もいれば食べられない日本人もいるわけで、単に慣れや好みの問題でしかない。

 にもかかわらず箸に愛国心を発動してしまうのは、「日本は特別な国」と思いたいからだろう。「お箸の国」ぐらいならまだいいが、「神の国」「美しい国」とか言い出すとややこしいことになる。どこの国にも神はいるし、どこの国も美しい。みんな違って、みんないい。

 そんなわけで、自分自身が美しい箸の使い方を心がけるのはいいとして、他人の箸の上げ下ろしにいちいち目くじら立てるのは、あまり美しくないと思うのだった。

 

文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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