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人はだいたい同じものを注文する【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」46品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」46品目


「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【46品目】「人はだいたい同じものを注文する」をご賞味あれ!


イラスト:おくやま ゆか

 

【46品目】人はだいたい同じものを注文する

 

 初めて入った店でメニューを検分するのは楽しい。ランチタイムなら店の前の看板とかでだいたい見当をつけて入ることが多いが、先日近所に新しくできた中華食堂に初めて入ったら、ランチメニューだけでなんと24種類もあった。しかもグランドメニューからも注文可という選択肢の多い店である。 

 とりあえずグランドメニューは置いといて、ランチ24種類をざっとチェック。その日は気分的に麺ではなく飯のつもりだったので、「肉野菜炒め定食」「中華丼」「しょうが焼き定食」「なす味噌飯」の4つに絞ったものの、「オム焼きそば」の写真がめっちゃそそられるルックスをしている。が、それだとビールを飲まないわけにいかなくなるのでグッと我慢して、なす味噌飯をセレクト、ご飯少なめでオーダーした。 

 料理が出てくるまでは、グランドメニューチェックの時間だ。ランチだけで24種類あるくらいだから、一品料理や点心もかなり充実していて「しめしめ、これなら夜も使えるな」とほくそ笑む。そうやってメニューを眺めている時間はとても楽しい。出てきたなす味噌飯(スープ付き)は、大雑把ながらも「こういうのでいいんだよ!」という感じで、ランチだけでなく夜にもまた来てみたいと思わせるには(値段も含めて)十分だった。

 次にランチに入ったときには(そのときの気分にもよるが)なす味噌飯以外の何かを頼むだろう。3回目も別の何かを注文すると思う。夜に飲みに行ったらまたそれなりにいろいろ食べるはずだ。たぶん、シメにオム焼きそばを頼む気がする。それらが期待を大きく裏切らない程度においしければ、巡回外食店リストに入るだろう。

 しかし、全部のメニューを試すかというと、それはない。仮にメニューが100品目あったとしても、自分の選択肢に入るのはたぶん20品目ぐらいだ。特にアレルギーも苦手食材もないけれど、自分でわざわざ頼まないメニューというのはある。中華でいえば、一般的には人気メニューと思われるエビチリなんかがそう。出されれば食べるけど、自分からは頼まない。ラーメンなら基本は塩で、次点がしょうゆ。担々麺とかもたまには食べる。が、味噌はまず頼まない。別に嫌いじゃないけど、選択肢には入らないのだ。

 それは中華に限らず、和食でもイタリアンでもフレンチでもエスニック系でも同様。2回目、3回目……と訪問回数が増え、気になるメニューをひとしきり食べたあとは、だいたい同じようなものを注文するようになる。わりとよく行く定食屋では、サバ味噌かアジフライか生姜焼き。有名老舗洋食屋では、カツカレーか生姜焼きヒラメフライ盛り合わせ。仕事場近くのビストロでは、前菜4種盛り、ヤリイカと季節野菜のトマト煮にメインは鴨か大山鶏のロースト。たまには違うものを……と思っても、結局いつものメニューに戻ってくる。

次のページ保守的と言われればそうかもしれない。が、それはきっと私だけではない。

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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