トングどっち向きに置く?【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」47品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」47品目
しかし、こうした食事の席でのジェンダーに関する固定観念も、他のさまざまな分野と同様、徐々に変わりつつある。トングの向きを気にするようになって数年後、肉バルみたいな店でパンクな感じのフロア担当女性が、私のほうに向けてトングを置いたのだ。意図して置いたのか、たまたまなのかはわからないが、「おっ」と思った。そして、ニヤリと笑う妻の皿に「ではワタクシがお取りいたします」と言いつつ恭しく取り分ける私。「うむ、かたじけない」と鷹揚にうなずく妻。すぐこういう小芝居をやりたがるバカ夫婦で恐縮つかまつる。
まあ、わざわざ男性側に置かなくても中間点(時計でいう3時か9時)に置くのが公平な気はするが、フロア担当の彼女は自分側に置かれたときの男性の反応を観察して楽しんでいたのかもしれない。だとしたら、なかなかいい趣味だ。なかには眉をしかめて女性側に押し返す人もいそうな気がする。そういう人は、相手の女性にもフロア担当嬢にも心の中で中指立てられていると思ったほうがいい。
とはいえ、コロナ禍以降、大皿ではなくあらかじめシェアした状態でサーブする店も増えた。そうなると、トングや取り箸の出番もない。昔から夫婦で通ってる居酒屋にコロナ後初めて行ったとき、刺し盛りが一人前ずつ別の皿に盛られて出てきたのにはちょっと味気なさも感じたが、そのほうが「それまだ一切れしか食ってない!」とか卑しい争いをしなくて済むし、いろんな意味で平等ではある。
会計についても、今の若い人はデートでも割り勘にするという話を聞く。実際どうなのかと思って検索してみたら、結構いろんな記事が出てきた。
結婚相談所のツヴァイが実施した2023年の調査(20歳~49歳の未婚男女各150人が回答)によれば、「お付き合いしていない相手との初デートでの支払い」では49%が割り勘を希望。男女別では男性40%、女性58%と、女性のほうが割り勘を希望する傾向が強い。2回目のデートでは割り勘派がさらに増えて52.3%(男性44.6%、女性60%)と過半数獲得。「男性が奢る」を選んだ人も15%いたが、内訳は男性20%、女性10%で、男性のほうが勝手に「奢らなきゃ」と思っている節がある。
2022年に内閣府男女共同参画局が行った「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」(20代~60代の男女約1万人が回答)でも、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という項目に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の合計は男性34.0%、女性21.5%と、男性のほうが高め。ここでも男性のほうの「奢らなきゃ」という意識が垣間見える。