酒飲み認定【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」42品目
【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」42品目
「食堂生まれ、外食育ち」の編集者・新保信長さんが、外食にまつわるアレコレを綴っていく好評の連載エッセイ。ただし、いわゆるグルメエッセイとは違って「味には基本的に言及しない」というのがミソ。外食ならではの出来事や人間模様について、実家の食堂の思い出も含めて語られるささやかなドラマの数々。いつかあの時の〝外食〟の時空間へーー。それでは【42品目】「酒飲み認定」をご賞味あれ!

【42品目】酒飲み認定
仕事柄、大量の本を買う。特にマンガは月に70~80冊ぐらい買う。マンガ以外もいろいろ買う。今はコロナ禍の影響もあってネット書店で買うことが増えたが、以前は週に一度はリアル書店に足を運んでいた。新宿紀伊國屋のアドホック店(コミック売り場)や渋谷の東急本店に入っていた丸善ジュンク堂、もっと昔は渋谷のH&Mになる前のブックファーストがマイ・フェイバリット書店だったが、今はすべてなくなってしまった。諸行無常。
上記以外で近年よく通っていたのが(今もたまに行くが)渋谷のKBD書店である。別に匿名にする必要もないのだが、まあ何となく匿名にしておく(大手チェーン書店で売り場面積もそこそこあるのに客が利用できるトイレがないのは改善していただきたい)。
メインの売り場は地下で、1階がコミック売り場。それなりの規模の書店なので店員も私が把握しているだけで6~7人はいるが、そのうちの一人のおじさんがコミック売り場のレジにいることが多く、その人が完全に私のことを個体認識している。
毎回十数冊、どうかすると20冊以上買うのに買い物カゴがなく、両手でも持ちきれなくなることが何度もあり、そのうち「お預かりしましょうか」と声をかけられるようになった。会計は大抵1万円超え。不作のときでもそれに近い。黙っていても宛名入りの領収書をくれるようにもなった。やがて、ほかの何人かにも個体認識されるようになる。
そうなるともう、店に入った時点で店員さんの顔がパーッと輝く。自意識過剰かもしれないが、たぶん「1万円さんキター!」とか思われていたのではないか。書店で1万円ぐらい使うのは自分の感覚としては普通だし、ほかにもそんな人はいくらでもいるだろうとは思うけど、頻度的にも金額的にも「あの客はよくマンガ買う客だ」と認知されていたような気がする。
飲食店でも似たようなことはある。3カ月に1回ぐらいの割合で行く高級そば屋の女将さん的な感じの人(ちょっと平野レミを彷彿させるキャラ)は、我々夫婦が行くとパーッと顔が輝く(気がする)。というのも、我々夫婦がめっちゃ酒飲むから。
いや、めっちゃと言ってもそんなにアホほど飲むわけではなく、夫婦でビール1本と日本酒4~5合程度なのだが、ほかの客がとにかく飲まない。1グループでビール1本とか日本酒1合とか、ヘタすりゃお茶だけとか、そんな感じなのである。メディアでも言われているように、特に若い世代の酒離れは深刻だ。
無理に飲む必要はないし飲んで暴れたりするのは論外だが、飲食店にとってお酒は利益率が高いと聞く。よくは知らないが、我々のように静かにひたすら飲んで、そこそこ食う客は、それなりに上客なのではないか。そのそば屋の女将さん的な感じの人も、ここぞとばかりに酒をすすめてくる。「あの客はよく酒飲む客だ」と認識されているのだろう。「メニューには載せてないんですけどね、今日はこんなお酒があるんですよ」と、レアな酒を推してきたりもする。
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