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酒飲み認定【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」42品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」42品目

 

 飲食店では基本的に“無名の客”でありたいし常連扱いされるのは本意ではないが、酒飲み認定されるのはちょっとうれしい。「斗酒なお辞せず」とは言わないまでも、おすすめされれば飲むにやぶさかではない。 

 そういう酒飲み認定的な現象が、初めて行った店でもちょいちょいある。年に何度かは音楽ライブや演劇を夫婦で見に行くが、野球と違って終わりの時間がだいたい決まっているので、会場近くの店を予約する。下調べはしていても、初めて入る店では味はもちろん一皿のボリュームもわからないので、まずは控えめに注文する。

 というか、料理の前にまず酒だ。とりあえずビール、場合によってはグラスのスパークリングを注文する。そこでガッカリすることもたまにある(スパークリングの気が抜けているとか)が、よほどのことがなければそのまま飲んだり食ったりするのが通常パターン。ライブや演劇のあとはテンションも上がっているし腹もへっているので、グビグビ飲んでバクバク食う。

  妻はそれほどでもないが、私の飲むピッチは速い。ビールでもワインでも日本酒でも焼酎でも、あっという間にグラスが空になる。お酒がないと料理にも手が伸びず、ピタッと固まってしまうタイプなので、完全に飲み干す前に次の酒を注文する。そうすると、3杯目ぐらいから妙に酒の盛りがよくなることが多いのだ。

  やはり「こいつ、よく飲むな」と酒飲み認定されるのだと思う。仮に自分が飲み屋をやってたとして、よく飲む客にはちょっと多めに注ぐことはありそうだ。それこそ偶然かもしれないが、ワインや日本酒のボトルに少しだけ残った分を「もうちょっとだけなので注いじゃいますねー」と注がれることも多い(気がする)。

  先日も所用で大阪に行ったときに初めて入ったカウンターだけの飲み屋で日本酒を飲んでいて、3杯目で一升瓶が残り少しになり、「よかったら飲んでくださーい」と目の前にボトルを置かれた。「喜んでー」と飲もうとしたら、本当に笑っちゃうほどちょっとしか残ってなかったのだが、ありがたくいただいた。

  一方で、月2ぐらいのペースで通ってる近所のビストロのワインの盛りがずっとショボくて3口ぐらいで飲み干してしまう。しかし、それはそれでいい。12席ほどの店を一人で回しているので3組も入ればてんてこ舞いだが、料理は多少時間かかっても酒はすぐに出してくれるのが素晴らしい。優先順位というものをわかっている。酒さえあれば大人しくしているのが(少なくとも私が考える)酒飲みなのだ。

  逆に言えば、酒がなかなか出てこない店は我慢ならない。料理はおいしいのに、酒が遅いという理由で行かなくなってしまった店もある。本末転倒と言われても、そこは譲れない。何はなくとも、まず酒を持ってきてくれ。話はそれからだ。

 

文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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