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さらに過酷なミッションを教員に押しつける文科省

【第22回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■文科省はかつての「失敗の本質」を学ぶべきだ

 4月7日に安倍晋三首相が7都府県を対象とした緊急事態宣言を行い、16日には全国に拡大したが、これら一連の新型コロナウイルス感染症拡大への日本政府の対応を「インパール作戦」と揶揄する声が少なくないようだ。

 インパール作戦とは、第2世界大戦中の1944年3月に帝国陸軍がビルマ戦線において、中華民国への主要な補給ルートの遮断を戦略目的として、イギリス領インド帝国北東部の都市であるインパール攻略を目指した作戦のことである。過酷な自然環境のなかでの進軍であるにも関わらず、満足な補給も確保されないままに強行され惨敗を喫した。これは精神論を根拠に作戦を実行させた結果であり、現在では「史上最悪の作戦」と言われている。

 しかし、その失敗がいま、教育現場でも繰り返されてしまいそうだ。

 4月14日の記者会見で萩生田光一文科相は、「昨今の状況のなか、学校において臨時休業等が続いた場合であっても、児童生徒が授業を十分に受けられないことによって、学習に著しい遅れが生じることがないようにすることは大変重要です」と述べた。
萩生田大臣が「学習に著しい遅れが生じることがないように」と述べた最中でも、新型コロナウイルス感染症における事態は深刻さを増していた。それにも関わらず、学習に遅れが生じてはならない、と号令を発していたのだ。14日の記者会見で萩生田文科相は、次のように続けている。

 「学校教育は、教師から児童生徒への対面指導、児童生徒同士の関わり合い等を通じて行われるものであり、臨時休業等が行われている場合であっても、その趣旨を踏まえて、汚染拡大防止に十分配慮しながら、教師がさまざまな工夫を行いつつ、児童生徒の学習を保障していくことが重要であると考えております」

 密閉・密接・密集の、いわゆる「3密」を避けよと言っておきながら、「対面指導」や「児童生徒同士の関わり合い」を行えと言っているのだ。これを教育現場に理解・実施しろと言っても無理な話である。
その無理難題を押しつけるために、文部省は4月10日付で、丸山洋司・初等中等教育局長名による「新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒の学習指導について(通知)」を出している。14日の萩生田文科相の発言は、この通知の趣旨を説明するというものでもあった。「通知」には、学習指導に関する「基本的な考え方」として次のように書かれてある。

 「家庭学習と、登校日の設定や家庭訪問の実施、電話の活用等を通じた教師による学習指導や学習状況の把握の組み合わせにより、児童性との学習を支援するための必要な措置を講じること」

 家庭訪問は密接状態にならざるをえない。しかし積極的に推奨しているのだ。「感染防止に十分配慮しながら」の文言はあるが、建前にしか聞こえない。
問題は、「家庭訪問の実施、電話の活用等を通じた教師による学習指導」である。通常の家庭訪問に要する時間は平均10分程度と言われているが、移動を含めればかなりの時間を割かなければならない。教員にとっては大きな負担となっている。また「学習指導のための家庭訪問」となれば、10分で終わるわけがない。しかも担任する児童生徒の数は1人や2人ではないのだ。どれだけの時間と労力を教員が割けば、「家庭訪問での学習指導」ができるというのだろうか。電話にしても同じことで、そもそも電話で効果的な指導が望めるとは思えない。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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