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政府の臨時休校要請はコロナウイルス以上に教員の負担を拡大させる

【第15回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■約20日分の授業をどう消化するかは学校が考えよ

 2月27日、安倍晋三首相は新型コロナウイルス感染症対策本部で、「全国全ての小学校、中学校、高校、特別支援学校に、3月2日から春休みまで臨時休校を行うよう要請する」と表明した。突然かつ異例な表明でもある。
 臨時休校については政府内でも慎重論があったが、首相主導で押し切ったという。新型コロナウイルス感染対策では「政府は後手に回っている」との批判が強まっており、内閣支持率も下落している。そこで、首相が強権を発動した形になった。
 そのとばっちりを食うのは学校であり、なによりも教員である。実際、突然の首相表明を受けて28日朝、全国の学校は対応に追われて大慌てしている。

 臨時休校を要請したことで、政府としては責任を果たした気になっているのかもしれない。しかし学校現場では「休み明けの対応をどうしたらいいものか…」という不安の声で満ちている。全国の公立小中学校では3月24日に修了式を行い、翌日から春休みに入ることになっている。つまり、20日余りも授業はストップしてしまうことになるのだ。
 「教員も長く休めるからいいじゃないか」なんて声もあるかもしれないが、とんでもないことである。休んでしまった授業の穴埋めをどのように行っていけばいいのだろうか。政府は臨時休校の「先」について具体的な方針は示していない。結局は現場任せ、これまでの姿勢と何ら変わってはいないのだ。
 

■軽視できない教員の精神的負担増加

 授業内容が多すぎる現在、たとえ1日でも、休みの分を補うことは容易なことではない。補修の時間を確保するために他の授業を犠牲にしたり、はたまた授業時間を増やす工夫をしなければならない。休みの期間分を自宅学習で補うことも簡単ではない。そのための教材が必要になってくるからだ。教材をつくるだけではなく、それらを児童・生徒に届け、さらにはチェックもしなければならない。
 それを、誰がやるのか。もちろん、教員だ。教育現場の労働問題については本連載で繰り返し述べているが、今回の要請によって現場の仕事は確実に、さらに増えることになるだろう。

 物理的な仕事量だけではない。精神的な負担も増すことは想像に難くない。なにせ現在は学年末の時期である。春休みが終われば進級しなければならない。その時期に授業がストップしてしまうというのは非常に深刻な問題である。
 授業の補てんがまったくできなかったと仮定すれば、たとえば現在の4年生は4年生で終了すべき学習内容を積み残したまま5年生になることになる。そして、5年生に進級した後に4年生分の学習内容に取り組むことになる。多くの教員が、積み残しなく進級させたいと考えるだろうし、そうするだろう。しかし、どのように解決したらよいのだろうか。責任感の強い教員ほど頭を悩ませることになるのだ。この心理的な負担は大きい。

教員も自宅に帰ったからといって仕事から「完全に」開放される時代ではない

■政府は教育現場に指示か救いを与えるべき

 28日、閣議後の記者会見で麻生太郎財務相は、休校中の学童保育費の負担について質問されて「つまんないことを聞く」と発言し、物議を醸している。今回の休校要請によって想定外の出費が生まれることは多くの保護者にとっては切実な問題だ。休校になって教員の負担が増えることも政府にとっては「つまんないこと」でしかないのかもしれない。
 とはいえ、政府を批判している時間さえも教員には惜しいだろう。この国難レベルの課題に向き合うためとはいえ、前例のない臨時休校に対応すべく、学校と教員はそれこそ時間的にも体力的にも極限の状況を強いられていくはずである。

 政府の役割は「休校」を宣言して終わりではない。対応策を出せないのであれば、せめて現場や教員に対して、いかに報いるべきかを考えてほしい。
 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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