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緊急事態宣言でわかった、給特法改正のその後

【第21回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教員の在宅勤務は誰がどのように管理するのか

新型コロナウイルス感染症が拡大する4月7日、政府は【東京・埼玉・千葉・神奈川・大阪・兵庫・福岡】の7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。同日、文科省は緊急事態宣言を踏まえた「臨時休業の実施に関するガイドライン」の改訂版を通知した。
そのなかで、教職員の在宅勤務や時差出勤については次のように述べている。

「教職員の勤務については、児童生徒等の学習の保障の見地から必要な業務を継続していただくことになります。その際には、教職員自身の健康にも配慮しつつ,在宅勤務や時差出勤等の工夫に努めてください」

休校になった場合でも教員は業務を継続し、さらには「在宅勤務」や「時差出勤」などの工夫に努めるよう指示している。時差出勤であれば、勤務時間を把握することは可能だが、問題は在宅勤務である。その勤務時間をどのように把握するのか、それがガイドラインには示されていない。

給特法の改正によって、教員の残業時間を「月45時間、年360時間以内」とすることが文科相が策定する「指針」とされた。文科省が2019年1月に示したガイドラインを「指針」へ格上げすることで、より厳格な運用を求めることになったわけだ。

一般企業と違って、学校にタイムレコーダーが導入されたのは最近になってのことである。それでも、「出勤時は押すが退勤時は押すことを禁じられている」とか「教頭が退勤時間を改ざんしている」という話が教員から聞かれるのは珍しいことではなかった。労働時間の「誤魔化し」が横行しており、ガイドラインが指針に格上げされたとしても、法的な罰則がないために、徹底されているとはとても言えそうもない。

そうしたなかで今回、文科省が在宅勤務を奨励するような方針を示したことになる。ただし在宅勤務の管理方法はおろか、学校や自治体に対して時間管理を徹底するように指示する文言すらもない。「月45時間、年360時間以内」としている指針が守られるのかどうかが危惧される。

■緊急事態宣言による教員への『補償』は?

そんなガイドラインだから、もちろん在宅勤務による残業時間が指針を超えた場合の補償については何も触れられていない。

政府の緊急事態宣言を受けて全国知事会は8日、休業やイベント自粛の要請に応じた企業や主催者などに対する損失補償を国に求める緊急提言をまとめた。緊急事態宣言が国民に自粛を求めるものである以上、それに対する補償を求める声が出るのは当然と言えよう。しかし、その補償を自治体負担にされたのではたまらないので、全国知事会は国に負担を求める提言を行ったとも言える。

西村康稔経済再生担当相が緊急事態宣言の対象地域となった7都府県知事とテレビ会議を行い、休業要請を2週間程度見送るよう打診していたのだ。関係者への取材で分かったとして、8日に共同通信が伝えている。

これに、小池百合子東京都知事などは強く反発しているという。全国でも最多の感染者数が明らかになっている東京では、被害を拡大しないためにロックダウン(都市封鎖)に踏み切りたいところだろうが、法的強制力のない現状では無理なことだ。国の緊急事態宣言にしても法的強制力はないのだが、そのうえ補償が無いとなれば、企業や飲食店も休業したくても休業できない。特に飲食店において、補償なき休業は閉店につながる可能性が高い

ただでさえ、緊急事態宣言によって客足は遠のき、実質的には休業状態となっているところは少なくない。「立ち枯れ」になりかねない状況なのだ。

■「3密」を避けられない学校で教員はどうすればいいのか

そうした政府の姿勢は、今回の在宅勤務を求める文科省のガイドラインにも共通している。通勤や出勤による感染リスクを避けるために、在宅勤務の必要性は理解できるものの、改正給特法で定められた残業時間についての配慮、つまり補償がまったくない

そんな形で丸投げされても、困るのは自治体であり教育委員会、そして学校現場である。これまでも文科省は新型コロナウイルス感染症拡大防止についてのガイドラインを通知しているが、密閉・密集・密接の「3密」を避けることを強調しながら、学習に遅れがでないように求めてきている。「3密」を避けられないのが学校であるにもかかわらず、それを避けての授業継続を求めているのだ。

今回の「臨時休業の実施に関するガイドライン」の改訂版で教員の在宅勤務に触れているのは「休校になって授業ができなくても生徒の学力を落とすな」ということでしかない。つまり、誰も経験したことのないことを教員に要求しているわけだ。

しかし、教員は子どもたちのためにそれを実行しようとし、より多くの時間を割かなければならなくなるだろう。そして、それによって精神的、肉体的な負担が増すことは火を見るより明らかである。
それらに対する「補償」について、文科省は「知らぬふり」を決め込んでいる。改正給特法が成立したのは昨年12月であり、まだ4ヶ月しか過ぎていない。それにもかかわらず、改正内容を意識していないかのような文科省の姿勢は問題だ。法改正は行ったが、厳格に守る姿勢がないのでは意味がない。

給特法の改正は教員を守るどころか、政府に実害が及ばないよう、体面を取り繕うだけのものにしかなっていない。このまま教員が「立ち枯れ」になってしまわないか心配だ。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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