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卒業・入学・新学期を前に、休校中の教職員に対して発せられた文科相からのメッセージ

【第18回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■休校中の教職員に対する文科省の惜しみない支援とは?

 萩生田光一文科相が3月19日付で、「教職員の皆様へ」という文書を発表した。新型コロナウイウルス感染拡大による一斉休校措置に際して、教職員に対する謝意を表すための文書であり、それにはこう書かれている。

「突然の休業の実施であるにもかかわらず、多くの不安や迷い、そして、子供たちの顔が見えないもどかしさを抱えながらも、子供たちの成長を願い、少しでもよりよい環境を作りたいと、学校現場で最善を尽くされている教職員の皆様方に対し、心から感謝申し上げます」

 教職員が頑張っているのは事実であり、それに対して文科相がこのような形で文書を発表することは意味があることだ。しかし重要なのは、単なる言葉だけではなく、中身をともなった教職員への支援であろう。17日の閣議後の記者会見で萩生田文科相は、学校再開後の対応について次のように語っている。

「例えば40人学級ですけれども、ここは逆に空き教室などを使って2クラスに分けて授業を行うなんていうのも一つの方法だと思いますし、完全再開が一番望ましいんですけれど、5日間の中で、あるいは土曜日なども上手に使いながら、全学年が集まらないような登校の仕方をしてみることも一つの考え方ではないかなど、今、文科省の中では話し合いをしています」

 新型コロナウイルス感染症という非常事態の状況下において、教職員の広範囲な活動を抜きにしては、教育そのものを存続させることすら危うい。そのためのアイデアを、文科相も示していることになる。ただし、文科相あるいは文科省として、その主体となる教職員への配慮をどれほどしているのだろうか。
 先の「2クラスへ分割した授業や土曜日の活用」といった例を文科相が示したことについて、記者から質問があった。以下がそのやり取りだ。

「その場合、学校の先生の数にも配慮が必要かと思いますが、そういったものもセットで考えられているのでしょうか?」

「これだけの、言うならば緊急事態で、学校の皆さんには窮屈な思いやご苦労をおかけしています。再開にあたって必要な支援というものは惜しみなくしっかりやっていきたいと思っています」

 「惜しみない支援」という言葉を発しながら明確な回答は避けている。記者の「セットで考えているかどうか」に対してこの回答では「セットでは考えていない」と解釈せざるを得ない。しかし、文科省にはスローガンではなく具体的かつ現実的な支援が期待されているのである。
 これは冒頭で紹介した「教職員の皆様へ」でも同じである。同文書は、次のように締めくくられている。

「今回の休業で、学校や先生方が社会にとってどれだけ大きく、そして、重要な存在であるかということを、日本中の多くの方々が噛みしめたことと思います。学校に元気な子供たちの笑顔が一日でも早く戻ってくるよう、感染拡大防止に向けて全力を尽くしてまいります。引き続き、教職員の皆様方の多大なる御理解・御協力を心よりお願いいたします」

 ここでも具体的な施策が示されているわけではなく、ただ「感染拡大防止に向けて全力を尽くしてまいります」という決意表明で終わっている。もちろん、決意表明は悪いことではない。問題は「教職員の皆様方の多大なる御理解・御協力を心よりお願いいたします」というフレーズにある。
 これまでも最大限の努力しているのは教員であり、職員である。それにも関わらず、さらに努力してくれというわけだ。そのためか「学校や教員が重要な存在であることを、日本中の多くの方々が噛みしめた」と持ち上げている。裏を返せば、重要な存在なのだからいっそう努力せよ、と言っているようにも受け取れてしまう。
 

■一斉休校を教育現場改善の糧に

 「教職員は重要な存在」であることを噛みしめてもらわなければならないのは、文科相や文科省である。そして、そのために支援策を具体的に示し、実行してもらわなければならない。それが行われていないのが現実なのだ。
 教員を「聖職」とすることで、待遇に文句をいわず、過労死ラインを超えても働くことを押し付けているのが、給特法の根底に流れている文科省の姿勢である。新型コロナウイルス感染症による一斉休校という事態になっても、残念ながらこの姿勢に変化は見えない。

 教職員の努力・働きに対して文科相が謝意を示すことは重要だ。しかし、それだけで終わっては困る。今回の一斉休校も、文科相をはじめとする文科省が教員や職員の重要性を噛みしめ、言葉だけでなく「惜しみない支援」を実行するきっかけにしていかなければならない。そのためにも、現場から声を上げ続けていくことが必要なのだ。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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