日本が凋落していった原因は3つ。「バブル崩壊」「冷戦終結」もう一つが…【中野剛志×黒野伸一】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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日本が凋落していった原因は3つ。「バブル崩壊」「冷戦終結」もう一つが…【中野剛志×黒野伸一】

この国はどうなる!? ポストコロナとMMT【対談第2回】


バブル崩壊から長期デフレ不況で経済が衰退しているところで襲ってきたコロナ禍の日本。この国はこのまま崩壊してしまうのではないか? どうすればこの国は立ち直れるのか? そんな強い危機意識と微かな希望を抱き、最新刊の小説『あした、この国は崩壊する ポストコロナとMMT』(ライブ・パブリッシング)を発売した小説家・黒野伸一氏。この小説執筆の構想に触発を与え続けたともいわれる『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室』(KKベストセラーズ)を著した評論家・中野剛志氏と、「日本経済崩壊の本当の理由と、この国のゆくえ」について熱く語りあう。1990年代に日本が凋落していく姿が活写されていく対談第2回。


 

2021年3月1日、菅直人元首相と小泉純一郎元首相が会見を開き、脱原発を訴えた。このふたり、今も昔もやっていることは実は一緒。世代交代はゆっくりと進む……

 

中野:ポイントは、国家の経済政策と民間企業での経営活動というのは、別物だということです。景気が悪い時に民間企業が節約するのは合理的ですけど、みんなで節約すると不景気になります。不況時に節約するのは、ミクロで見ると経済合理的ですが、マクロで見ると不合理になる。これは私の本『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(KKベストセラーズ)でも紹介していますが、「合成の誤謬」と言います

 

黒野:あの本はまさに目からウロコでした。

 

中野:いい加減な会社を潰したいというのは当然の心理なのですが、やり過ぎると、そこの従業員が失業者になり、需要がなくなり、回りまわって自分の給料が下がることになる。不況時に民間企業が節約するのは仕方がない。その時こそ、政府が支出を拡大する。それでバランスを採って、「合成の誤謬」を回避するのです。ところが日本の場合、デフレ不況だから政府を大きくするべきだったのに、「民間が節約しているときに、なんで政府だけ金を使っているんだ」という批判が起きてしまった。それに反論しようとしても、「これからは民間主導で行くのが時代の流れだ」と言い張って聞く耳を持たない。それどころか、役人の方も、「これからは、政府は口を出さないで民間に任せるんだ」と考えるようになった。政府がなんでも助けるようなお上意識でやっているから、日本はいつまでたっても民主化しないんだというわけです。東大で、丸山眞男(政治学者)やその弟子たちに習ったようなことをみんな突然思い出して。

 

黒野:丸山眞男ですか……(笑)。

 

中野:奇しくもその時、冷戦が終わってソ連が崩壊したので、「それ見ろ、やはり大きな政府はダメなんだ。これからは小さな政府だ」と。実際には、日本は社会主義どころか、OECD諸国でGDPに占める政府支出は小さいほうで、人口当たりの公務員の数もダントツで少なかった。

 

黒野:少ないですよね。

 

中野:人口当たりの公務員数は、アメリカよりはるかに少ない。だいたい、戦後日本が官主導だったのは戦後復興期の一時的な現象で、55年体制以降の日本経済は、官主導などではなかった。なのに「社会主義が滅びたあと、これからは官主導をやめて、小さな政府にして、個人の自由に任せておけばいいんだ。日本の経済が悪くなったのは、封建時代の遺制が残っていて、近代的な個の意識が確立しておらず、お上意識が強く、本当の意味で民主化していないからなんだ」などと言い出したわけです。私は学生の時、この突然の論調の変化を目の当たりにして、大変、驚きました。

 

黒野:驚きますよね。

 

中野:インフレで調子がいい時は、政府はやることがないんです。民間が頑張ればうまくいく。だから役人は給料が安くてもいい(笑)。でも、景気が悪くなったら、特にデフレになったら政府の出番で、そういうデフレになったのが、1998年からです。ところが、その時いた役所の幹部たちは、放っておいても経済が成長していた頃に入省して、役人をやっていた人たちです。さらに、自分たちが中間管理職になったときにはバブルだったので、なおさらやることがなかった。黒野さんのお話しにあった企業と同じで、ハンコさえ押していればよかった。日本経済がどうなったら、どういう政策を打つべきかなどという訓練を全くやっていなかったわけです。そこでデフレ不況になったというのに、学生時代に習った丸山眞男流の「日本は官主導で個が確立していないからダメなんだ」という話を思い出してしまった。これからは小さな政府と自己責任で……オイ! 逆だろうと……。

 

黒野:凄いな……。

 

中野:バブルに話を戻すと、あれは民間だけを責められない。黒野さんがおっしゃったように、プラザ合意のあと日銀は金利を凄く引き下げたんです。もっとも、円高不況だから金利を引き下げて助けるっていうのはまあ仕方なかった。ところが、問題は、その後です。日銀が金利を上げる機会をうかがっていたところ、87年にアメリカがブラック・マンデーを起こしてしまった。金融危機ですね。

 

黒野:ああ、そうですね。

 

1987年10月19日、ブラックマンデー

 

中野:もし日本が金利を上げたらアメリカのお金を吸い上げちゃってアメリカの金融危機を深刻化させてしまうので、日本は金利を上げなかった。かつ、当時のアメリカは自分たちの貿易赤字を減らしたいがために、日本にもっと内需を拡大して輸入しろと圧力をかけてきました。日本は、バブルを防ぐために金利を上げたかったのですが、アメリカが金利を上げるなと圧力をかけてきたんです。そこで、日本は長きにわたって金利を低めに維持せざるを得なくなり、その結果、バブルが起きてしまった。だから日本のバブルというのは、アメリカの圧力で起きたものだとも言えるのですよ。

 

黒野:そんな圧力があったんですね。

 

中野:日本は自分で自分の国を守れないから、アメリカの圧力に屈するしかない。そこに実は、問題の深い根があった。もっと嫌な言い方をすると、戦後復興や高度成長、これは日本人が立派だったせいなのか、という疑問すら浮かんでくる。もちろん、立派だった面もあるでしょう。でも、世界中どこを見渡しても、敗戦国が戦勝国の庇護のもとで、「お前ら防衛費のことは考えなくていいから経済のことだけ考えてろ」って、普通はそんなうまい話はない。冷戦期の米国は、日本が貧しいままだと共産化するかもしれないと考え、かつては敵国だったけど豊かになっていいぞ、アメリカにどんどん輸出していいぞってやってくれた。こんなラッキーなことは、ないわけです。

 

黒野:超ラッキーですよね。

 

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