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【緊急寄稿】子供を性被害から守るために、私たち大人がすべきこと

―知識は力になる―

■子供たちが自分の身を守るため「知識は力になる」

 子供たちが過ごす環境は安全な状態ばかりとは限らない。学校や幼稚園、保育園など子供を預ける施設にも、登下校の道筋やいつも立ち寄るお店にも、残念ながら子供を性的な対象として見る大人はいるかもしれないし、同じ学校の中の同年代の加害者も存在し得る。上述のように、家庭内が安全ではないこともある。

 そう考えると、子供たちが自分の身を守る最後の砦となるのは、子供自身が抵抗する力しかない。それはすなわち、「NO!」いやと言う、「GO!」逃げる、そして「TELL!」誰かに相談することを知っておくこと、そしてこれらのことを勇気をもって行動に移すことである。

 筆者はこれまで、下は小学校一年生から上は大学生までを対象に、「大切なあなたへ 大切な心と体の守り方」と題して、学齢期に応じた資料を使い分けながら、児童・生徒たちに体の守るべき場所や守り方を具体的に伝える活動をしてきている。中には既に被害経験を持っている子がいる可能性もあるので、知識を伝えると同時に、「もし被害に遭ってしまったとしても、悪いのは加害者であって被害者ではないよ」ということも伝えるようにしている。実際、講演後にもらう感想で被害経験を伝えてくれる子もいて、それが「小学校に入る前だった」ということもあった。「もしまた同じようなことがあったら、今日教えてもらったことを生かしたい」そんな言葉を読むと、「もっと早く誰かが伝えてくれていれば」と悔しくて仕方ない。

 そして今、最も脆弱な幼児期の子供にも、以下の内容は伝えておくべきと考えている。

 ●水着を着ると隠れる部分は、プライベートゾーンといって、自分だけの大事な場所だから、他の人に見せたり、触らせたりしてはいけない。
 ●他の人のプライベートゾーンを、無理やり見たり触ったりしてはいけない。
 ●もし触られそうになったら(触られたら)、大きな声で「いや」と言う、逃げる、大人に相談する。
 ●いやな目に合っているお友達がいたら、助けてあげる。大人に相談する。

 心と体の守り方を幼児期の子供達に伝えるためには工夫が必要である。現在、友人たちが子供に分かりやすく伝えるため「絵本」のかたちでツール作りを進めており、筆者も監修として関わっている(https://kumokun.themedia.jp/)。小学校の養護教諭の先生(保健室の先生)や特別支援学校の教員、保育士、小児科医、幼い頃に性的虐待経験を持つ方々など、様々な立場の人から意見を聴きながら、形になりつつあるところである。

「いや!」「やめて!」と声を上げたり、その場から逃げるということは、その場面における危機を回避するという意味だけでなく、加害者に「この子には抵抗される」「この子を襲うのは容易ではない」という情報がインプットされることにより、その後の被害の抑止にもつながる。だれかに打ち明けることで、第三者が介入し、加害行為を止めることにもつながり得る。

 実際に声を出す、逃げる、相談するという行為は、ロールプレイなどで練習することが効果的である。そしてこれらの「知識」と「勇気」を全ての子どもたちに与えるためには、幼稚園や学校教育の場で、繰り返し伝えることが必要不可欠である(巻末脚註【1】参照)。

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小笠原 和美

おがさわら かずみ

慶應義塾大学教授(専門:社会安全政策、性暴力、ジェンダー)

1994年警察庁入庁。2011年福島県警警務部長、2012年警視庁広報課長、2016年北海道警察函館方面本部長など、全国各地の警察で勤務する中、10年程前から性暴力対策に取り組んでおり、医療機関を拠点とする性暴力被害者支援スキームや、子どもを性被害から守るための協議会の発足など、地元の様々な立場の人や組織と連携して、地域の力で被害者や子供たちを守る仕組みをプロデュース。様々な事例を通じて「知識は力になる」と確信、小学校から大学まで、子供達に「大切なあなたへ~大切な心と体の守り方~」を伝える活動や全国各地で大人向けの講演活動も行っている。CAP(Child Assault Prevention)スペシャリスト(J-CAPTA)。

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