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長野県に学ぶべき、安い医療費で日本一長生きする医療

第2回 最強の地域医療

かつては「短命県」として知られていながら、男女ともに長寿日本一を獲得した長野県。
その成功の背景には、一人の医師の姿が――。
著書『最強の地域医療』(ベスト新書)を著し、夕張の医療改革を成し遂げた村上智彦医師、その同僚の永森克志医師に見えた、長野県から見習うべきポイントとは。

なぜ、長野県は長寿日本一になったのか?

 

 皆さんは、日本一長生きな地域がどこか、ご存知でしょうか?

 実は病院数や医師数が多い東京でもなければ、暖かい沖縄でもありません。雪も多く、寒く、生活環境が過酷な長野県です。

 厚生労働省が平成22年に発表した『都道府県別生命表』によれば、長野県の平均寿命は男性80.88歳、女性87.18歳と、男女ともに日本一。ちなみに全国平均は男性79.59歳、女性86.35歳で、最下位が男女ともに青森県(男性77.28歳、女性85.34歳)でした。

 そんな長野県ですが、ずっと昔から長寿日本一だったのかと言えばそうではありません。昭和40年(1965年)には、男性9位、女性26位で、女性は全国の平均寿命を下回っていました。戦前は自然環境の似ている青森県と同じく、短命県として有名だったようです。

 というのも、長野県は美味しい野沢菜づけで知られるように、漬物文化が根付いていたため、塩分摂取量も多く、脳疾患や胃がんが日本有数に多い地域だったのです。

 このような状況を改善すべく奮闘したのが、佐久総合病院の故若月俊一先生(1910年~2006年)です。数十年前から若月先生が中心となって生活や食事を改善し、早期発見早期予防できる仕組みを作ってきました。

 最も有名なのが、昭和34年に日本で初めて集団検診を実施した、八千穂村の全村健康診断です。すべての村民に健診を実施し、病気を早期発見・治療するだけでなく、どうしたら健康になるのかを村民に教えるために、面白い劇を演じたり、村民と酒を飲んで語り合ったりしました。

 すると、八千穂村だけ他の地域と比べて、医療費が安くなっていきました。

 この結果に続いたのが、長野県の医師、保健師などです。それぞれの地域で検診を始め、塩分を減らす重要性を教え、昭和46年には「保健補導員」なる制度まで始めて健康づくりを推進しました。この制度は簡単に言えば、一家のお母さんたちが保健補導員として健康に関する知識を学び、近所や家庭で共有していくというものです。

 こうした取り組みの結果として、少しずつ住民の意識が変わり、予防と健康を意識する人が増え、医療費も減り、日本で最も長生きな地域になりました。

 

 前回の記事で、「戦う医療」(病気を治すための専門医療)から「ささえる医療」への転換が必要だということをお伝えしました。長野県は介護保険が始まる以前から、自主的にそのような取り組みを行っていた地域です。長生きした人に対しては、医師、看護師、介護職、リハビリ職など多職種でケアを行い、地域を支えていたのです。

 佐久総合病院の下支えと、住民たちの意識向上が、長寿日本一という結果を生んだのだと思います。

 私自身も研修を受けた佐久総合病院は、住民のニーズに誠実に応えながら、保健・医療・介護を一体化し、地域医療から専門医療までを提供することで、常勤医師200名に及ぶ大型病院に成長してきました。

 いまも若月先生の後継者たる北澤彰浩医師、由井和也医師、小松裕和医師らが中心となり佐久地域で「最強の地域医療」を続けています。

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永森 克志

ながもり かつし

昭和47年、富山県生まれ。慈恵医大を卒業し、村上智彦医師とともに夕張医療再生に取り組む。その後、隣町の栗山町で夕張郡訪問クリニックの院長として、2013年に医療法人社団ささえる医療研究所「ささえるクリニック」を立ち上げ、岩見沢・栗山・ゆに・旭川周辺をささえている。


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