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夕張の医療を再生させるための、ただ一つのポイント

第1回 最強の地域医療

2017年3月1日、「財政再生団体」に指定されている夕張市は、2029年度までの13年間で、新規事業138億円を含む新たな計画を発表。若年層や子育て世代への施策を盛り込み、地域再生のために必要な事業に取り組んでいく方針を明らかにしました。
夕張は、ここから本当に再生できるのか――。
「交付金等の税金に頼っていると、結局はそれ以前に破綻した時と同じ古い発想であり、根本的な問題は解決しない。」
2007年に経営破綻した夕張市立総合病院に代わって、「夕張希望の杜」を立ち上げた村上智彦医師は、最新刊『最強の地域医療』(ベスト新書)の中でそう語る。
村上医師とともに医療再生に尽力した永森克志医師が説く、夕張を変える医療の姿。

全国でもっとも高齢化した地域・夕張

 

 夕張の財政計画見直しから考えると、夕張の医療は再生できないでしょう。この計画は「図書館などの複合施設の開設」「コンパクトシティー化」などのハコモノ主体となっているため、国への依存を深めるばかりで、自立した住民にとって住みよい地域にはなり得ません。

 夕張の行政と市長は、財政破綻によって「戦う医療」(病気を治すための専門医療)を行う総合病院がなくなり、医療は崩壊、住民はかわいそう、という思い込みを持っています。その考え方では医療を再生することはできません。

 そもそも、夕張の町や住民は本当に「かわいそう」なのでしょうか? 自分たちの地域で過剰な借金をして破綻したのだから、地域に責任があります。

 そもそも、夕張は「戦う医療」が必要な町なのでしょうか?

 夕張は2015年で高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)が48.6%と、日本全国でもっとも高齢化が進んだ地域です。

 若い患者さんであれば、体力も免疫力もあるので病気と戦って勝つことができますが、高齢者はそうではありません。夕張のような高齢者だらけの町で、従来通りの専門医を揃えた総合病院で「戦う医療」を続けることが必要だとは思えません。

 明瞭な事実として、高齢者は入院するだけで死亡リスクと認知症リスクが上がることがわかっています。つまり、ある病気を治すためにベッド上で安静を強いること自体がリスクになるのです。70歳以上では入院して数日寝ているだけで、認知症発症率が極めて高くなります。

 それにもかかわらず、入院させて、たとえば「1週間点滴したら治る」といった従来の発想や常識をあてはめてしまったら、患者は認知症が悪化してこれまでの生活に戻れなくなるかもしれません。

「戦う医療」は高齢者を過剰なまでに保護しようとしてしまいます。

 たとえば施設では入浴前、入浴後をはじめとして血圧や体温を何度も測ろうとしますが、80歳以上の人の血圧正常値を測ったところで、どのくらいなら長生きできるのかもわかりません。さらに、長生きさせたいがために、食べることが生きがいになっている高齢者にまで食事制限をしようとしてしまいます。

 戦って勝つ医療をそのままの形で続けていても、誰もハッピーにはなりません。

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永森 克志

ながもり かつし

昭和47年、富山県生まれ。慈恵医大を卒業し、村上智彦医師とともに夕張医療再生に取り組む。その後、隣町の栗山町で夕張郡訪問クリニックの院長として、2013年に医療法人社団ささえる医療研究所「ささえるクリニック」を立ち上げ、岩見沢・栗山・ゆに・旭川周辺をささえている。


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