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ねじれる左派・右派と「愛国」の構図。「トランプ現象」以降のアメリカ

反トランプデモとアメリカの愛国

■アメリカで起きている左派右派「愛国」のねじれ

 トランプ大統領の就任以来、全米各地で「反トランプ」を訴えるデモが盛んに行われている。デモには様々な主張や形態が見られるが、その多くでは女性やLBGTの権利、入国禁止措置への反対など、左派的な立場や主張が訴えられている。

 「反トランプ」デモを報道する写真を見ていると、デモの参加者たちがところどころで星条旗や、星条旗をモチーフにしたメッセージカードを掲げている様子が目につく。そしてデモで掲げられている星条旗は多くの場合、自由、平等な権利、民主主義、多様性の擁護といった、アメリカ的理念を象徴するものとして、肯定的に用いられているように見受けられる。トランプによって歪められたアメリカを取り戻せというッセージも込められているのだろう。

 日本でも政権の政策に反対するデモや左派的な主張を訴えるデモが行われることがあるが、日本の左派的なデモの参加者が、今回の「反トランプ」デモのように日の丸を肯定的なものとして掲げることは、あまりないのではないだろうか。こういった点に、日米両国の左派と「愛国」への態度の違いがよく現れている。

 

 トランプ大統領は共和党の大統領であり、左右の位置付けで言えば「右」の、保守派の大統領だということに なる。実際に「アメリカ・ファースト」という言葉がスローガンとして掲げられ、就任演説でも強調されていた。自由貿易に反対し、保護貿易を進めようとする政策は、ナショナリズムの一つの形とも言える、 自国の貧しい白人労働者の利益保護を主張したり、移民の入国制限をしたりするあたりも、ナショナリスティックな側面として見られるだろう。
 だが、このトランプ流のナショナリズムは、従来までのナショナリズムとは大きく異なり、一線を画すものだと言える。そして、もう一方「反トランプ」の主張の中にも、 今までとは異なるアメリカ的な理念への左派的な「愛国」の形が見られるのではないだろうか。

 従来であれば、「右」の保守派が「愛国」的であり、「左」の革新派が反権力、反国家的であるとするイメージが一般的だった。アメリカでも、ベトナム反戦運動が盛んになった1960年代以降は、そういった構図が定着していた。しかし、「トランプ現象」以降、アメリカにおいて左右と「愛国」の構図に変化とねじれが生じつつあるのかもしれない。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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