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トランプ当選に良い面があるとすれば。

政治的無関心という風潮を変える可能性

「トランプに勝たせない」という消極的な心理

 

 アメリカ大統領選挙の行方は多くの関心を集め、ドナルド・トランプの勝利は驚きと共に世界中に伝えられた。専門家ならずとも、多くの人はヒラリー・クリントンの勝利を予想していたことだろう。

 ネット上には、当選が確定した瞬間のトランプ陣営を写した写真が出回ったが、周囲が沸き立つ中でトランプ本人だけが浮かない顔をしているように見えたのは、責任の重さを実感しているだけでなく、本人が一番当選という事態に驚いていたからなのかもしれない。

 トランプ勝利の理由として最も納得がいった説明は、マイケル・ムーアが7月29日に投稿していたハフィントン・ポストの記事「ドナルド・トランプが大統領になる5つの理由を教えよう」である。この記事も、選挙結果が出たあたりからネット上で盛んにシェアされていた。

 実際に、この記事で言われている通りになった。世論調査で「ヒラリーかトランプか?」と聞かれれば「ヒラリー」と答える人が多かったとしても、実際に投票所まで行って長い列に並んでまで投票をするほど熱心に支持する支持者が多かったのはトランプのほうだったのかもしれない。

 そういった支持の「熱」の差が、フロリダ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン等の僅差の勝利に繋がったのだろう。これらの州では全て得票率1%あるかないかの差でトランプが勝利したが、選挙人の数を足すと75人で、もしヒラリーがこれらの州で勝っていたら全体でも逆転できるほどの数になる。

 各種の報道では、選挙が盛り上がっているかのように見えたが、実際の投票率はオバマが初めて当選した前々回より約5~6%、オバマが二回目の当選を果たした前回よりも約2%低下して、約56%ほどに急落したと言われている

 だから、いくらハリウッドのセレブが嘆こうとも、各地で反トランプデモが起きようとも、全米での得票数が上回っていることを訴えようとも、全て後の祭りである。孫子の兵法で「善く戦う者は人を致して人に致されず」と言われているように、戦いは主導権を握ったほうが勝つ。10月のテレビ討論会のあたりまでは、主導権を握っていたのはヒラリーのほうだった。しかし、最終的に投票日当日の主導権を握ったのはトランプのほうだったのである。

 トランプに勝たせないためにヒラリーに投票するという消極的な心理よりも、トランプを勝たせたいという積極的な心理の勢いが勝った面もあっただろう。世論調査やメディアの予想もヒラリー勝利の一色で、ヒラリーを支持する有権者たちも、自分一人が投票に行かなくても結果は明らかだと油断していたのではないか。ヒラリーを勝たせるためには、本人も支持者も、守りに入るのではなく、攻めて主導権を握る必要があったのだ。

注 「Why did Trump win? In part because voter turnout plunged. 」https://www.washingtonpost.com/blogs/plum-line/wp/2016/11/10/why-did-trump-win-in-part-because-voter-turnout-plunged/?utm_term=.ed31ca8145e5

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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