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ウフフ! 金沢へ④

季節と時節でつづる戦国おりおり 第245回

 前々回ご紹介しました末森合戦での野村信貞一番槍の件。その後も調べてみると、おもしろいですねー、史料によって微妙に違います。

「奥村因幡守書上」では、山崎彦右衛門が先行したが、堀切のところで伏して様子をうかがっていたところに野村信貞が続いて進み、名乗りをあげた。

 ふたりは同時に槍をつけた。後に彦右衛門は、自分は伏せていて信貞が来たのを見て進んだので、信貞の方が一番槍だと申告し、信貞は信貞で先に進んでいたのは彦右衛門だから一番槍は彦右衛門、と申告した。このため両名とも一番槍と裁定された。

 また、「横山山城守覚書」では、信貞ら5人が先行したけれども、敵は戦わなかったため、本当に槍合わせをしたのかどうかは分からない。

 最後に「関屋政春古兵談」では一番槍富田六左衛門、二番野村伝兵衛、三番山崎彦右衛門となっています。

 このあたりは、末森城攻防戦がいかに激しく敵味方ともに混乱していたかを如実に反映しているのでしょう。そういえば、大坂夏の陣では徳川軍の将兵たちが敵将・後藤又兵衛の幟や甲冑がどんな意匠だったかを誰もハッキリと覚えていなかった、という話もありました。

 いずれにしても信貞は1200石取りで金沢城下に立派な屋敷を持つ身分だった訳ですから、経緯は別にしても軍功は大いに評価されたのでしょう。
 

野村七郎兵衛宛ての光秀書状。

 なお、野村家屋敷跡に展示されている明智光秀書状は、金沢市史編纂に携わっておられる筆者の畏友の学芸員に確認したところ間違いなく本物だそうです。光秀と野村一族にどういうつながりがあったのか、興味は尽きませんね。

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橋場 日月

はしば あきら

はしば・あきら/大阪府出身。古文書などの史料を駆使した独自のアプローチで、新たな史観を浮き彫りにする研究家兼作家。主な著作に『新説桶狭間合戦』(学研)、『地形で読み解く「真田三代」最強の秘密』(朝日新書)、『大判ビジュアル図解 大迫力!写真と絵でわかる日本史』(西東社)など。


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