リスキリングを追いかけて「使い捨て人材」にならないように、知っておくべきこと《後編》【大竹稽】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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リスキリングを追いかけて「使い捨て人材」にならないように、知っておくべきこと《後編》【大竹稽】

~「どんどん増やす」思考の人間はいずれ破裂する〜

 

◾️リスキリングに執着する限り、チャンスは巡ってこない!?

 

 こうして、新しいモノや新しいスキルが「生産」し続けられる。望んでではなく、なぜか知らないうちにモノやスキルが増えているのです。こうして私たちの消費活動は呪われたものになります。

 さらに厄介なことに、この文脈に「幸福」が忍び込んでしまうことがあります。新しいスキルの獲得の先に幸福があると信じさせ、モノは常に「幸福」を先送りにしていきます。そうしながら、私たちの命を浪費させていくでしょう。

 経産省は、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業を進めています。そこには、「新しいスキルで、新しいチャンスを」のキャッチコピーとともに、胸を張った姿勢と笑顔で幸福をアピールしてくる美男美女がいます。全くもう、浅ましい策略ですね。

 一体、「新しいスキルで、新しいチャンスを」は、いつ成就するのでしょう? リスキリングに執着する限り、新しいスキルの獲得・増加に思考を奪われている限り、そのチャンスなどいつまでもやってこないでしょうね。むしろ、吐いてみましょう。減らしてみましょう。しあわせや笑顔は、吐いて減らすところにあるのですよ。

 最後に、ボードリヤールの厳しくも誠実な現状分析を、あなたにプレゼントしましょう。これをどうするかは、あなた次第です。

 

「幸福は計量可能なものでなければならない。幸福は、モノと記号によって計量できる物資的安楽でなければならない」

 

※【前編】はこちらから読むことができます

 

文:大竹稽

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大竹稽

おおたけ けい

教育者、哲学者

株式会社禅鯤館 代表取締役
産経子供ニュース編集顧問

 

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

 

専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

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