「エロス」と「聖なるもの」で蕩尽するのが人間ではないのか 〜「ホスト問題」と「統一教会問題」の三つ目の共通点【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「エロス」と「聖なるもの」で蕩尽するのが人間ではないのか 〜「ホスト問題」と「統一教会問題」の三つ目の共通点【仲正昌樹】

 

 社会の多数派の目から見て、無駄なお金の使い方をしているからといって、本人の意志に反しているとか、マインド・コントロールされているに違いない、と決め付けるのは、危険である。人間は自分が思っているほど、合理的に判断していない――統一教会信者やホスト・クラブの存在を非難している人たちもそうである。一定の「蕩尽」があるからこそ、社会が持続しているというバタイユ的な視点を全面的に受け入れろとは言わないが、考慮に入れるべきであろう。

 一昨年の夏に統一教会問題が浮上して以降、普段はワイルドを気取って、「何が無駄で、何が役に立つかなんて、いろいろやってみないと分からないし、結果的に無駄になってもいいじゃないか。無駄なことを思い切って実行できない、こせこせした人生なんて無味乾燥で、つまらない!」と言っていそうな人たちが、急にがちがちの合理主義者になってしまうのをしばしば見かけるようになった。「統一教会」とか「ホスト」とか、嫌われ者の話となると、「あんなことに無駄な金使うのは、人としておかしい!目を覚ませ!」と、説教ぽくなる。あなたたちそんなに合理主義者なのか、人間は自分の利益にならないことは一切やらないのか、幻想のために生きるのはそんなに許されないことなのか、と言いたくなる

 

文:仲正昌樹

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか』(KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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