〝学び直し〟で〝バージョン・アップ〟した自分を目指す愚かさ 「リカレント教育」の矛盾を突く【大竹稽】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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〝学び直し〟で〝バージョン・アップ〟した自分を目指す愚かさ 「リカレント教育」の矛盾を突く【大竹稽】

「自主性」の大誤解を正す!

 

■「〝学び直し〟て〝アップデート〟せよ!」という提言を信じるバカ

 

 経済産業省が、こんな資料を公開しています。

 「『人生100年時代の社会人の基礎力』と『リカレント教育』について」と題が付されているこの資料には、あまりにも非情な提言がされています。

「付加価値を発揮し続けるためには、「一億総学び」社会の下で、絶えず学び直しを通じたアップデートや新たなスキルの獲得が必要不可欠」

 まぁ、金儲けを企むビジネス野郎たちが好きそうな言葉が並んでいますね。彼らは煽ってきます。「付加価値」はあなたの責任でつけてください。国民は絶えず「学び直し」をして「アップデート」してください。なんて便利なフレーズなのでしょう。きっとこの提言を作った人物は、国民をパソコンかなんかと勘違いしているようですね。きっとこの人物の脳みそは、AIによってコントロールされているのでしょう。学びの意欲もないのに、「学べ!学べ!」。いや、「学び直せ!」なんて、人間の生の体験をなんだと思っているのでしょうね。

 リカレント教育のコンテンツを受講するのもいいでしょう。しかし、敢えてこの権威を使い倒してやるくらいの、打算的な姿勢で臨めばいいのです。己の本質を自主性に据える人間は、何も用意されていなくても、勝手に学びます。たまたま探していたコンテンツがそこにあった。「役に立てようとも思っていない」、なんて破天荒な動機で受講してしまいましょう。全てが用意されていないと動けない思考奴隷の人間になってはいけません。そんな人間には、事あるたびに、「自分で決めたんだろ?」という必殺フレーズが襲うでしょう。

 前回は、マインドフルネスという流行語にも触れました。これをビジネスにする人たちは、必ず個人のメンタルに注目します。こうして「マインドフルになれない人たち(なんでしょうね、マインドフルって?)」が生まれ、ますます自分自身を辛くさせるのです。「マインドフルネス講座」の大半は、「マインドフルになれない人たちを生む」ビジネスの仕掛けだと理解しておきましょう。リカレント教育も同類です。

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大竹稽

おおたけ けい

教育者、哲学者

株式会社禅鯤館 代表取締役
産経子供ニュース編集顧問

 

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

 

専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

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